Automotive SPICEが生んだ悪しき習慣 ~構成管理編~
構成管理:「とりあえず一覧を作る」が現場を疲弊させる
Automotive SPICE対応の現場で、いつの間にか「規格に対応すること」自体が目的になっていないでしょうか。
構成管理も、その代表例の一つです。
構成品目一覧を作る。
ステータス報告を用意する。
成果物へのリンクを貼る。
アセスメント前に、不足情報をかき集める。
一見すると、Automotive SPICEの要求に対応する活動に見えます。
しかし、その一覧は現場で使われているでしょうか。
ステータス報告は、日常の管理に役立っているでしょうか。
もし、アセスメントのためだけに作っているのであれば、注意が必要です。
それは構成管理ではなく、構成管理をしているように見せる作業かもしれません。
「とりあえずリンクを貼る」ことは構成管理ではない
構成管理では、要求仕様書や設計書などの文書を識別し、状態や保管場所を把握する必要があります。
紙で文書を管理していた時代は、文書一覧を手掛かりに、書棚から目的の文書を綴じたバインダーを探していました。
所定の場所にバインダーがなければ、必要な文書を探すだけでも大変でした。
電子管理になった現在も、本質は同じです。
文書一覧は台帳に、バインダーや書棚は電子ファイルや共有フォルダーに変わりました。
台帳にリンクを貼っても、リンク先が最新版とは限りません。ファイルが移動され、リンクが切れることもあります。
ところが、現場では次のように要求が単純化されることがあります。
「一覧を作ればよい」
「成果物へのリンクを貼ればよい」
その結果、次のような状況が起こります。
- 構成品目一覧はあるが、誰も日常的に見ていない
- ステータス報告はあるが、更新されていない
- リンク先が最新版か分からない
- 台帳にはあるが、所定の場所にファイルがない
- アセスメント直前に情報を整えている
構成管理に必要なのは、一覧やリンクを作ることではありません。
必要なときに、正しい文書を確実に取り出せる状態を保つことです。
この状態を維持する仕組みがなければ、規程や一覧を整備しても、現場の運用は人の注意力に依存したままです。
特定プロジェクトだけのプロセスになる
さらに問題なのは、このような仕組みが特別扱いされることです。
社内で「Automotive SPICE対応プロセス」や「A-SPICEプロセス」と呼ばれるようになります。
そして、OEMから対応を要求されたプロジェクトだけが使います。
本来、規格対応は組織の開発力を高めるためのものです。
しかし、形式的な対応を続けると、特定プロジェクトだけが我慢して使うプロセスになってしまいます。
当然、現場は進んで使おうとはしません。
規程があっても現場では回らない
構成管理が回らないのは、ルールがないからとは限りません。
多くの会社には、次のようなルールや仕組みがあります。
- 文書管理規程
- 採番ルール
- 文書の格納場所
- 文書管理台帳
それでも、採番ミスや登録漏れは発生します。
台帳と実体ファイルが一致しないこともあります。
過去文書を探す作業にも時間がかかります。
ルールそのものは存在していました。
しかし、ルールがあるだけでは、正しい運用は定着しません。
Webinar「採番ミスから脱却する構成管理DX実践事例【Automotive SPICE SUP.8】」でも、この問題を取り上げました。
人の注意力に依存した運用
実際の構成管理では、多くの作業を人の注意力に頼っていました。
具体的には、次のような作業です。
- 採番ルールを思い出す
- 正しい台帳を探す
- 台帳へ情報を登録する
- フォルダを目視で確認する
- 未格納を見つけて連絡する
担当者が注意深く対応すれば、一定期間は問題を防げます。
しかし、業務量の増加や担当者の変更によって、ミスや漏れが起こる可能性があります。
問題は、担当者の意識や能力ではありません。
規程を無理なく守れる仕組みがないことです。
構成管理で本当に必要なこと
構成管理で必要なのは、アセスメント用の帳票を増やすことではありません。
まず、要求仕様書や設計書など、開発に必要な文書を確実に作成します。
次に、その内容を関係者がレビューします。これにより、要求の抜けや設計上の問題を早期に発見できます。
レビュー済みの文書を正しく管理することも重要です。
古い版や未承認の文書を使用すると、設計、実装、テストに誤りが広がる可能性があります。
つまり、文書管理は単なる事務作業ではありません。
正しい文書を確実に使える状態にすることで、開発品質を支える活動です。
日常業務の中で、自然に次のことができる状態を作ることです。
-
文書や成果物を識別できる
-
採番ルールに沿って番号を付けられる
-
登録状態を確認できる
-
必要な文書をすぐに探せる
-
台帳と実体ファイルのズレに気付ける
-
過去状態を必要に応じて確認できる
Automotive SPICEが求めているのも、現場から切り離された帳票づくりではありません。
必要な成果物を作り、レビューし、正しい状態で管理することです。
その積み重ねが、製品やソフトウェアの品質向上につながります。
最初から完璧な仕組みを目指さない
私たちは、構成(文書)管理を大規模な専用システムで解決しようとはしませんでした。
まず、現場で負担になっている作業を整理しました。
- 文書番号の採番
- 過去文書の検索
- 台帳情報の管理
- 未格納文書の確認
そして、優先順位の高いものから改善を始めました。
重要なのは、最初から完璧な構成管理システムを作ることではありません。
まず現場で使ってもらうことです。
その後、利用者の声を聞きながら改善します。
Power Platformで一つずつ仕組み化
具体的には、Power Apps、SharePoint、Power Automateを活用しました。
文書番号の採番から始め、次の機能を段階的に追加しました。
- 文書検索
- マイ文書管理
- ダッシュボード
- 未格納監視
- メールやTeamsによる通知
- 月次バックアップ
Webinarでは、これらの機能を段階的に追加した流れを紹介しています。
その中で仕組み化した全体構成と各ツールの役割分担を示した図が以下となります。

完成品を一度に導入したわけではありません。
日常的な困りごとを、一つずつ仕組みに置き換えました。
人が覚える運用から、仕組みが支える運用へ
採番ルールを人に覚えさせるのではなく、画面上の選択肢に組み込みました。
複数のExcel台帳を探す代わりに、検索画面から文書を探せるようにしました。
未格納文書を人が目視確認するのではなく、仕組みで検知して通知するようにしました。
台帳情報の保存も自動化しました。
毎月、バックアップを作成する仕組みです。
人が注意し続ける運用を、一つずつ仕組みに置き換える。この考え方が、現実的な構成管理DXにつながります。
脱・Automotive SPICEごっこ
Automotive SPICEが悪いわけではありません。
問題は、規格を「現場を良くするための道具」として使わないことです。
アセスメントを通すための作業リストとして扱うと、規格対応は形骸化します。
構成品目一覧を作ることが目的ではありません。
ステータス報告を整えることも目的ではありません。
リンクを貼るだけでは、構成管理とはいえません。
本来の目的は、現場の成果物を正しく管理することです。
そして、必要なときに必要な情報を説明できる状態にすることです。
まずは一つの困りごとから
構成管理DXは、高価なツールを導入することではありません。
人に依存していた判断や確認を、仕組みに置き換えることです。
もし構成管理が回っていないなら、現場の困りごとを一つ選んでみてください。
- 採番に時間がかかっていないか
- 過去文書を探すのに苦労していないか
- 台帳と実体ファイルがずれていないか
- 未格納文書を目視で探していないか
そこに、構成管理改善の入口があります。
ビジネスガレージでは、文書管理や構成管理の現状を整理します。
また、属人化している判断や確認作業を可視化します。
さらに、Power Platformを活用した仕組みづくりも支援しています。
Automotive SPICEやISO 9001を踏まえた運用改善にも対応します。
「規格対応のための構成管理」ではなく、
現場で使われ、継続して回る構成管理へ。
それが、私たちが考える構成管理DXです。
(鈴木 功)
構成管理改善をお考えの方へ
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