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Automotive SPICE 4.0 トレーサビリティと一貫性に関する変更点(SYS/HWE):HWE導入によるプロセスのギャップ解消

Automotive SPICE 4.0 では、従来のソフトウェア中心の構成から一歩進み、ハードウェアエンジニアリング(HWE)という新たなプロセス領域が追加されました。
今回は、トレーサビリティと一貫性の観点から、SYS(システムエンジニアリング)とHWEの関係性に焦点を当て、HWE導入がもたらすプロセス上のギャップ解消について説明します。

 


◆Ver3.1までの課題

Ver3.1までは、ハードウェア開発に関するプロセスが明示的に定義されておらず、多くの組織では以下のような課題が見られました。

  • ハードウェア要求が体系的に管理されていない
  • 設計と要求のトレーサビリティが不十分
  • ソフトウェアと比較してプロセス成熟度が低く、属人化しやすい

このような状況では、システム全体の整合性を保つことが難しく、特に安全性や信頼性が求められる領域では大きなリスクとなっていました。

 


◆HWEの登場とその意義

Ver4.0で新設されたHWEプロセス領域は、ハードウェア開発を「要求定義 → 設計 → 実装 → 検証」という一連のプロセスとして明確に定義しています。これにより、以下のような効果が期待されます。

  • ハードウェア要求の明文化と管理
  • 設計成果物とのトレーサビリティ確保
  • SYSとの整合性チェックの仕組み化
  • ソフトウェア開発とのプロセス統一による連携強化

特に、SYS-HWE間のトレーサビリティが明確になることで、システム全体の一貫性が担保されやすくなります。

 


◆トレーサビリティと一貫性の実現

HWE導入により、以下のようなトレーサビリティの流れが構築されました。

  1.  SYS.2(システム要求分析)で定義されたシステム要求が、
  2. HWE.1(ハードウェア要求分析)に引き継がれ、
  3. HWE.2(ハードウェア設計)で設計に反映され、
  4. HWE.3(ハードウェア設計に対する検証)で設計が検証され、
  5. HWE.4(ハードウェア要求に対する検証)で要求が検証される

この一連の流れにおいて、各プロセス間で要求のトレーサビリティのリンクを明示的に管理することで、変更が発生した際にも影響範囲を迅速に把握でき、設計ミスや手戻りのリスクを低減できます。

また、SYSとHWEの間で一貫性チェックを行うことで、要求の解釈違いや設計のズレを早期に発見することが可能になります。

 


◆まとめ

Ver4.0におけるHWEの導入は、これまで曖昧だったハードウェア開発プロセスに明確な枠組みを与え、SYSとの連携を強化する大きな一歩です。
特にトレーサビリティと一貫性の観点から見ると、システム全体の品質向上とリスク低減に直結する重要な進化と言えるでしょう。

今後は、HWEプロセスの実装と定着を通じて、ソフトウェアとハードウェアが真に連携した開発体制の構築が求められることになると思います。

佐藤 崇