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Automotive SPICE MAN.3 計画の計画(GP2.1.2)とは何か?

皆さんご承知のように、Automotive SPICE の能力レベル2では、プロセスに対する目標設定や計画、監視と制御などが求められています。例えばソフトウェア要求分析(SWE.1)では、要求分析の作業を計画的に進めるために、WBS(Work Breakdown Structure)などを使用して管理するわけですが、プロジェクト管理(MAN.3)の作業を計画的に進めるとなると、何を実施すればよいのかわからなくなってしまうケースが多いようです。そこで今回は、MAN.3の GP2.1.2 をどのように捉えればよいかを解説いたします。

 

ここでは、「計画の計画って何?」ということを良く耳にします。「プロジェクト計画策定計画」なる書類を作成しているプロジェクトも見たことがあります。おそらく、MAN.3 の主要成果物がプロジェクト計画書なので、プロジェクト計画を作成するための計画が MAN.3 の GP2.1.2 になると言いたいのだろうと思います。確かに、プロジェクト計画書はプロジェクトの初期に作成することが重要でありながら、タイムリーに作成されないことが多く、プロジェクト計画を作成するための計画が必要だということは間違っていないのかもしれません。しかしながら、あまりにも Automotive SPICE にこだわりすぎた事例だと思いませんか?プロジェクト計画作成というタスクが1つ(あるいは不随した複数のタスク:例えば日程計画、工数見積もりなど)あれば十分だと思います。

 

 


実際に実施している作業や、計画・管理として重要な側面を考えていくことで、実施すべき作業(あるいは Automotive SPICE への適用)が見えてくると思います。

 

実際に、計画に関連する作業を一般事例の中から抽出してみます:

  1. ウォーターフォール的なライフサイクルを適用している場合
    •  プロジェクトの開始当初に、大日程を作成する
      – 機能一覧を作成し各機能に必要な概算工数を見積もる
      – 大日程上の各工程で必要となる作業を洗い出し中日程を作成する
      – 各工程に必要な概算工数を算出し、プロジェクト合計工数として積み上げる
    •  各工程の開始時に、工程内で必要なタスクを抽出し、小日程を作成する
      – 各タスクに必要な工数を算出する
      – この際、当初算出した工程工数との差異を分析する
      – 必用に応じて対策を検討し、全体計画を修正する
    •  各工程の終了時に、工程内で使用した実績工数を集計する
      – 工程開始時に算出した工程工数との差異を分析する
      – 必用に応じて対策を検討し、全体計画を修正する
  1. アジャイル的なライフサイクルを適用している場合
    • プロジェクトの開始当初にイテレーション数、スプリント回数・期間を決める
      – バックログを作成する
      – 各イテレーションに割り当てる要件を決定する
    •  各イテレーションの開始時に、スプリントを計画する(スプリントプランニング)
      – 各スプリントに割り当てる要件を選択して、ストーリーポイントを算出する
      – 各スプリントに割り当てる要件をバックログから選択する
      – 要件毎に作業タスクを決定する
    • 各スプリントの終了時に、スプリントの状況を評価する(スプリントレトロスペクティブ)
      – 次のスプリントに持ち越す要件、中止する要件などを精査しバックログを修正する
    • 各イテレーションの終了時に、イテレーションの状況を評価する
      – バックログを精査し、全体の計画を見直す

 


いかがでしょうか? ここに記載した内容はプロジェクトの中で当たり前のように実施している作業だと思います。計画の計画(MAN.3 のGP2.1.2)とは、これらの作業が実際に行われていれば良いのです。つまり、プロジェクト計画書作成計画というような計画書だけが焦点ではなく、都度進んでいく工程(アジャイルの場合はイテレーションやスプリント)ごとに、初期計画を詳細化する(あるいは見直す)ことが、計画作業そのものなのです。これらを計画的に進めるためには、WBSタスクの設定や作業者のアサイン、作業工数の見積もりなどが必要になってくることは言うまでもありません。

 

最後に余談ですが、MAN.3 GP2.1.3(リソースのニーズを決定する)/GP2.1.4(リソースを識別し、利用可能にする)について補足いたします。上記で説明した例のように開発ライフサイクルが異なってくると、人的リソースや物理的リソースへの要求事項も変わってきます。例えば、アジャイル手法を用いるプロジェクトでは、プロダクトオーナーやスクラムマスターといった役割が登場します。また、管理手法もカンバンやバーンダウンチャートなどを使用することになります。プロジェクトで採用するライフサイクルにより、計画・管理のタスクや役割・スキル要件、必要なツールが異なってくることを再認識できますね。例えば今回の計画の計画のように、一瞬戸惑うことがあるかもしれませんが、日々実施していることを整理することで、無駄な作業を追加することなくAutomotive SPICEへの適用ができるはずです。

 

日吉 昭彦