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生成AIを活用した、技術コンサルティングの導入事例を追加しました

生成AIを活用した設計ドキュメント作成プロセス効率化支援の導入事例お客様より『過剰に工数がかかり過ぎないFMEA作成手順を検討したい』とご相談をいただきました。当社は生成AI(ChatGPT)を活用することでFMEA作成をどれほど効率化できるかを検証しました。今回はその実施内容と効果をまとめたものを掲載しています。少しでもご興味のある方は、是非ご覧ください。生成AIを活用した設計ドキュメント作成プロセス効率化支援

コラム

プロセスとは何か? ~ 開発プロセスについて考えてみよう

この記事を見てくださっている方は、製品の開発プロセス作成に何らかの形で携わっている方だと思います。今回は、「プロセス」という言葉との向き合い方について、そのヒントをお伝えします。  Process という言葉の解釈皆さんは、「プロセス」という言葉の意味を、うまく説明できますか?筆者は、当初なかなかうまく説明できませんでした。プロセスという単語は、そもそもカタカナで記載される単語であり、日本語の解釈が数多くある言葉だと思います。従って開発プロセスとして使う場合は、プロセスという言葉の使用環境を理解して、その解釈の適合性を整理しておくことが、スタートラインだと考えています。 まず、Google 先生に「プロセス」「広辞苑」と入力して聞いてみたところ、下記の回答が返ってきました: 広辞苑における「プロセス」の意味は、「過程」や「工程」と同義で、物事が結果に達するまでの道筋や手順、方法を指します。ビジネスシーンにおいては、業務の進め方や手順、または一連の出来事を指すことが多いです。 広辞苑には「プロセス」という単語そのものの定義は直接記載されていませんが、類語として「過程」、「工程」、「手順」などが挙げられています。これらの言葉は、広辞苑で「プロセス」の概念を理解する上で参考になります。 AIによる概要として、英語の「process」が語源であり、現代では物事の達成までの工程や過程、あるいはその進め方を指す言葉として一般的に使用されています。という説明も出力されました。次に日本語辞書から検索してみると(デジタル大辞泉で検索): 仕事を進める方法、手順。「作業のプロセス」 過程、経過 コンピューターでプログラムなどを動作させる際、CPUが実行するひとまとまりの処理の単位 他の検索ツールにおいても、おおむね同様の説明が得られるようです。結論からすると、外来語である「プロセス」を直接当てはめる日本語はなく、使用用途に応じて適切な解釈をすることの重要性が再認識されます。 では、「開発プロセス」として見た場合、どのように解釈するのが良いでしょうか?ここでは、欧米が発信する世界標準や文献から、Process の一般的な定義を調査してみます。 IEEE Standard Glossary of Software Engineering Terminology:ある目的のために実行される一連のステップCMMI 用語集:互いに関連を持った活動の集合であり、所与の目的を達成するために、入力を出力に変換するものQuality Process Management by Pall, Gabriel:指定された最終結果を生み出すように設計された作業活動に関わる「人、材料、エネルギー、機器および手順」の論理的編成 つまり、開発プロセスとは、「アウトプットを出すために実施している作業ステップ」と考えられます。 プロセスアセスメントのインタビューで、プロセスという言葉を使って会話すると、「残念ながら、私たちにはプロセスはないんですよ」というやり取りになることがあります。プロセスの意味を正しく理解していれば、少しおかしな発言だと思いませんか?言葉の解釈が正しくできていれば、「私たちの作業プロセスは文書化されていません」という回答となるはずです。何らかの作業をしてアウトプットが生成されていれば、そこに「プロセス」は存在するからです。  開発プロセスを文書化する際のヒントと注意点それでは、開発プロセスを文書化する上で重要な点について考察してみます。 現状の作業方法を正しく理解すること これには、「誰が」、「何を入力として」、「どのような方法で」、「何を作成しているか」を含みます そして明確になったことを文書化することこれを第一ステップとして、開発メンバー全員で共有することが重要です。もし、個々人で作業内容が異なる場合は、調整しながら納得のいく手順に修正する必要があります。このステップなくして、プロセス改善 = 「品質や生産性の向上」にはつながりません。 特に、プロセスアセスメントモデルを活用しているケースでは、次のようなことが起こりがちですので注意が必要です: 従来の作業方法を考えずに、モデルをそのままコピーしてプロセスを作成してしまう アセスメントで「○○文書がない」と指摘されたため、モデルに定義されている成果物をそのまま新たに導入してしまう製品開発ができている限り、アセスメントモデルが言及していることと同様の作業や成果物が必ずあるはずです。言葉遣いの相違、成果物の過不足あるいは作業順の違いなどはあって当たり前です。アセスメントモデルは、世の中のベストプラクティスをモデル化しただけですので、順番や言葉遣いは標準化されているからです。 ここで重要なことは: モデルの意図を理解すること 自分たちが従来実施している作業手順を尊重すること もしモデルが言及していることと現作業手順にギャップがある場合、それを変更・追加した際の価値と効果を評価することアセスメントモデルがプロセス能力レベルを定義していることから、ゴールを急ぐことが目的になり、ついつい本質を見失う活動になりがちです。ばくだいな工数をかけてプロセスを変更したにもかかわらず、工数ばかりが増加して誰からも歓迎されない手順になってしまったり、アセスメントの説明以外では誰も使っていない成果物ができてしまうということが実際に起こっています。まずは、自分たちの作業を尊重して作業を進めることを第一ステップとしてください。  プロセスは、段階的に改善していく「現状手順をベースに作業すると、すぐに能力ベルが上がらないじゃないか!」、「上司からは、顧客要求だから1年後に能力レベル3が必達だ!と言われている」という声が聞こえてきそうです。それは、確かにリアルワールドで起こっていることだと認識しています。目標到達までの時間は、現状いる位置により異なりますよね。従って、まずは自分のいる位置をきちんと把握した上で、議論することが必要です。 Automotive SPICEを要求してくる欧州自動車メーカーも、プロセスに関するプロフェッショナルです。発注前のアセスメント結果(サプライヤーの現状の立ち位置)があまりにも低い場合は、無理な要求はしないはずです。それは能力レベルを1段階向上させるために要する時間を経験上知っているからです。言葉を変えると、そのような評価になったサプライヤーには発注しないはずです。ノミネーションに残ったということは、それなりの期間で能力レベルの向上が可能だと判断したということなのです。 現状の立ち位置から目標到達までの改善計画を立案し、自動車メーカー(あるいは会社の上司)と合意しながら進めていくことが最短の道のりとなるはずです。ぜひ、従来の作業方法に自信を持って、アセスメントモデルに翻弄されない活動をしていただけるよう切に願います。 プロセスの可視化のステップのわかりやすい事例が、CMMI関連の技術文書に書かれているので、プロセス能力の向上という観点からプロセスの可視化のイメージをつかんでください。  能力レベルとは、作業(プロセス)の定着度合いを示す指標だと考えてみてください。プロジェクトの経験から得た学びを、継続的に改善を繰り返すことで段階的にプロセス能力の向上が可能となります。この過程では、「プロセスが適切な粒度で可視化」されるようになることで、その粒度でプロセス実績が計測可能となり、結果としてプロセス実績のばらつきが少なくなっていくことになります。  「文書化されたプロセスが使われない」もう1つの要因作成者が苦労して作成したプロセスも、開発メンバーに使ってもらえなければ、まったく意味がありません。残念ながら、数多くの組織やプロジェクトで、このような状況が起きています。もう一度「プロセスの可視性」と「予測される実績」の図を見てください。プロセスが可視化されていても、開発メンバーに浸透していなければ「能力レベル1」の状態と変わりません。たとえプロセスが文書化されていても、そのプロセスを意識せずに各メンバーが思い思いの方法で作業しているのであれば、プロセスは雲の中にある状態と変わらず、実績もついてこないことは容易に想像できると思います。 なぜこんなことが起こってしまうのでしょうか?誰が考えても、この無駄な状況を理解できると思います。ズバリ!日本の文化では、「Process」の必要性を多くの人が感じていないのだと思います。特に、人と人との擦り合わせの中で業務をしていく習慣が強い日本では、その場その場で臨機応変な対応を迫られます。ここが、外来語である「プロセス」の難しいところだと思っています。たとえプロセスを文書化しても、プロセス通りには作業できないことが日常で多く起こってしまうのかもしれません。あるいは作業計画を作成したが、要件変更が日常的に発生し、計画しても意味がないということが日本では多いようです。 一方、日本でも擦り合わせだけではうまくプロジェクトを回せない状況になりつつあります。例えば、Z世代のような若い人たちの考え方の変化、海外を含めた多拠点開発や分業制の必要性など、開発プロジェクトの環境は欧米に近づいてきています。従って、このままの状況を放置していくことは良いことではありません。  では、「プロセス」にはどのように向き合っていけばよいのでしょうか?第一に、プロセスを確立することの目的を明確にし、その価値を共有することです。 プロセス管理の前提は、製品品質や生産性の向上が直接的な焦点ですが、最終ゴールは事業への貢献にあります 従って、プロセスは経営者や上級管理者の事業への思いを実現する手段でなければなりません 欧州自動車メーカーは、Automotive SPICEをプロジェクト要求としてインプットしてきますが、彼らがアセスメントモデルを活用する背景には、プロセス管理の前提を理解した経営層が組織運営しているサプライヤーと幅広く長期間の取引をしたいという目的もあるのです 次に、目的を達成するためのアプローチを経営側面で決定し、段階的に進めながら最終ゴールを目指すことです。 初めから高望みははしない アセスメントモデルで使用される各能力レベルへの到達指標は、その評点に大きな幅(50点から85点)があることを認識してください 最初の目標は50点で良しとし、次の段階で85点以上を目指すようなアプローチが可能になっています はじめから重厚長大なプロセスを作っても、使われなくなるという副作用が増すだけです 能力レベルの評点に大きな幅を持たせているのは、プロセス改善で起こりうる状況を考慮した上で、段階的なアプローチを可能にするためなのです  プロジェクト個別に進めるのか、最初から組織標準を導入するのか? Automotive SPICEのようなプロセスモデルの本質を理解して、アプローチを決定することが良いでしょう アセスメントモデルでは、組織標準の適用段階は能力レベル3であるということを理解しておくことも重要です 経験則的に、プロジェクト内の決め事が徹底できない状況のプロジェクトに、組織標準を適用し浸透させることは至難の業です プロセスの作成に専任リソースを準備するのか、プロジェクトメンバー全員が参加する方法(プロジェクト業務との兼務)で実施するのか? ここには正解はなく、経営者や管理者の思いで体制を構築することが最善策となるでしょう  たとえば下記の2つの考え方は、人によって異なるはずです: 兼務の場合、プロジェクト業務がひっ迫するとプロセス改善活動がおろそかになるため、専任リソースによる活動が望ましい 専任リソースがプロセスを定義すると、プロジェクトの思いとは異なるプロセスができやすく、浸透しにくいため、全員参加が望ましい ここで重要なのは体制ではなく、経営者・管理者が自分の思いで活動を主導することであり、これができる組織は必ず成功しています 最終的なゴールを最初からある程度想定しながら、段階的にゴールを変更していくことも重要かもしれません。筆者は、これまでの経験(自社や他社の取り組み)から、最終ゴールは、「ツール上で日々の仕事ができるようになれば、担当者はプロセス文書を見なくても仕事ができる状態にすること」だと考えています プロジェクト計画書の作成を例に挙げると: 日本では、計画書のテンプレートを準備して、人手により時間をかけて書いていることが大半です 欧米では、日々の作業に必要なWBSタスクや役割分担などをツール上で管理者が定義し、担当者はWBSに従って作業し、実績を入力する方法が一般的です これは、ツール上にある各タスクが日々の作業計画であり、作業記録が進捗状態だという合理的な考え方です プロジェクト計画書を他者に見せる必要がある場合は、「計画書作成ボタン」を押すと、ツール上に組み込まれたテンプレートに必要なデータ要素が組み込まれ、自動で印刷されるような仕組みが導入されています欧米のケースでも、プロセス文書は存在しており、それはツールの設計図という位置づけに加えて、各ツールの機能画面から必要に応じて簡単に参照できるようになっています  さいごに筆者は、全社にCMMIに準拠した標準プロセスを導入するように命じられた時、欧米人を1名プロジェクトに加えてくれとお願いしました。なぜならば、カタカナで分かりにくい内容のものを導入するなら、文化的に「Process」という扱いに慣れた人材の投入が最短だと思ったからです。残念ながら願いは叶わず、プロセス能力が上がるまでに長い時間がかかってしまいました。しかしながら、長い年月をかけて数多くの挫折を経験できたことで、開発現場におけるプロセスとの向き合い方に関するノウハウを得られたことは貴重な体験でした。今回のコラムが、同様の悩みを持たれている方々への一助になれば幸いです。 弊社では、プロセスアセスメントモデルを扱う際に発生する課題や教訓を記載したコラム(Automotive SPICE(アセスメントモデル)の功罪)も発行しておりますので、こちらもご参照ください。 次回は、プロセスを文書化していく際に有効な「プロセスモデリングの原則」を取り入れたプロセスアーキテクチャに関するコラムをお届けする予定です。(日吉昭彦)

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【Webinar動画公開】第4回 Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介

先日開催した、第4回 Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介の Webinar動画を、弊社公式 YouTube に公開しましたのでお知らせいたします。ぜひ、ご視聴ください。 ▼ご視聴はこちらから:https://youtu.be/tD3GhK7PWrA▼タイムライン 00:00 オープニング 02:01 車載システム/ソフトウェア開発プロセス関連の規格08:12 規格対応例11:29 見受けられる規格対応の課題 13:43 規格対応プロセスの統合14:36 統合のロジック(ISO 26262 とISO 21434の統合/量産設計プロセスへの組み込み)17:12 統合プロセスの例(システム要求分析/ソフトウェア要求分析/ソフトウェアアーキテクチャ設計/品質保証)30:05 ISO 26262・ISO/SAE21434導入ガイドラインのご紹介41:26 Q&A

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【新着動画公開】B’zine7月号動画を公開しました!ASPICE |Webinar|コラム情報

ビジネスガレージ株式会社が毎月メールでお届けしている月刊ニュースレター「B’zine(ビー・ジーン)」。今回は7月号の動画バージョンを公開しました! 弊社が開催しているWebinar情報やコラム掲載情報など、車載ソフトウェア開発に関わる方、業界の最新トレンドをキャッチしたい方におすすめの内容です。ぜひご覧ください! ▶ 動画はこちらからご視聴いただけます:https://youtu.be/WfrQAjN0L1I

B'zine

B’zine – 2025年7月号(生成AIを活用したFMEAの自動化など)発行

梅雨明け後も連日の猛暑日が続いていますね。北海道では観測史上最高の気温40度を記録し、沖縄と温度逆転するような異常気象の予報も出ています。夏休みのレジャーは熱中症対策を十分とった計画としてください。 B'zine 7月号を発行いたしました。B’zineは、1回/月のペースでの配信しています。ご興味のある方は、ここから登録をお願いいたします。   B'zineビジネスガレージ通信(2025年7月号) 梅雨明け後も連日の猛暑日が続いていますね。北海道では観測史上最高の気温40度を記録し、沖縄と温度逆転するような異常気象の予報も出ています。夏休みのレジャーは熱中症対策を十分とった計画としてください。 【今月のトピックス】 イベント:Automotive SPICE 入門(実務者向け)一般開催トレーニング(8月開催) イベント:7月30日開催Webinar:Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介を開催 動画公開:Automotive SPICE 4.0特集|B’zine6月号の動画を公開しました コラム:プロジェクトマネージャーの成長を支える羅針盤──PMCDとは何か? コラム:Automotive SPICE を使って業務は改善されているのか? コラム:"やりすぎFMEA" に終止符を- 生成AIを使ってもっと「創造」しよう - 【イベント】 Automotive SPICE入門(実務者向け)一般開催トレーニング開催のご案内(8月開催)開発現場の実務者に役立つような具体的な事例を含めて、プロセス毎に解説します。詳細・お申込みはこちらから→https://www.bgarage.co.jp/news/1121/ 7月30日Webinar開催:Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介Automotive SPICEが規定する開発プロセスと、機能安全やサイバーセキュリティをどのように融合するかを解説します。詳細・お申込みはこちらから→https://www.bgarage.co.jp/news/1199/ 9月Webinar(予定):Modeling & Simulation SPICE 概説システム開発および運用において、高信頼性のモデルベース開発やシミュレーションの体系的なエンジニアリングプロセスについて解説します。 【動画公開】 Automotive SPICE 4.0特集|B’zine6月号の動画を公開ビジネスガレージ株式会社が毎月メールでお届けしている月刊ニュースレター「B’zine(ビー・ジーン)」の6月号の動画バージョンを公開しました。業界の最新動向や、開発現場での活用事例をわかりやすく解説しています。動画はこちらからご視聴いただけます: https://www.youtube.com/watch?v=4lXto-jehHg  【コラム】  プロジェクトマネージャーの成長を支える羅針盤──PMCDとは何か?優れたPMになるために必要なスキルや知識とは何なのでしょうか?必要な知識をまとめたPMBOKが有名ですが、求められるスキルや育成については明確な定義がありません。そこで登場するのが「PMCD(Project Manager Competency Development Framework)」です。PMCDはPMI(Project Management Institute)によって開発されたフレームワークであり、プロジェクトマネージャーに求められる「能力」を体系的に整理したものです。単なる技術的なスキルセットではなく、「知識(Knowledge)」「パフォーマンス(Performance)」「個人特性(Personal Competencies)」の3側面から成り立っており、総合的なコンピテンシーを育成・評価することを目的としています。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1187/ Automotive SPICEを使って業務は改善されているのか? ・Automotive SPICEを導入してプロセスを整備したけど、本当に現場の役に立っているの?・開発標準は整っているけれど、実際には形骸化していて使われていない・レビューやチェックリストの数は増えたが、かえって手間が増えて効果が見えないこうした現場のモヤモヤは多くの組織で共通しており、この背景には “プロセスを定義すること” と “改善すること” が混同されているという問題があります。Automotive SPICEなどの成熟度モデルを活用するうえで、継続的に成果へとつながっていくため改善サイクルの回し方について考えてみます。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1240/  “やりすぎFMEA” に終止符を─ 生成AIを使ってもっと「創造」しよう ─FMEAをはじめとした設計ドキュメントは、品質と安全を確保するうえで欠かせないものです。しかし実際の現場では、開発プロセスに則った各種設計ドキュメントの作成に多くの工数と時間が割かれ、「創造」よりも「作業」に没頭する比率が大きくなってしまうケースが少なくありません。そこで私たちは、生成AI(ChatGPT)を活用し、FMEA作成のプロセスをどこまで自動化・支援できるかを試行する取り組みを行いました。「FMEAとしてそのままでは使えない部分がある」という課題は残るものの、AIによるたたき台生成の有効性と工数削減効果は明らかで、「生成AIは必ず使えるという確信が持てました。その検証結果とともに、FMEA作成に潜む根本的な課題と、それらに対する生成AIの有効性についてご紹介します。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1236/ 

コラム

“やりすぎFMEA”に終止符を ─ 生成AIを使ってもっと「創造」しよう ─

はじめにあるお客様から「FMEAの作成に膨大な労力を費やしており、作業を効率化したい。」というご相談をいただきました。これは、多くの開発現場に共通する悩みではないでしょうか。FMEAをはじめとした設計ドキュメントは、品質と安全を確保するうえで欠かせないものです。しかし実際の現場では、開発プロセスに則った各種設計ドキュメントの作成に多くの工数と時間が割かれ、「創造」よりも「作業」に没頭する比率が大きくなってしまうケースが少なくありません。そこで私たちは、生成AI(ChatGPT)を活用し、FMEA作成のプロセスをどこまで自動化・支援できるかを試行する取り組みを行いました。結果として、「FMEAとしてそのままでは使えない部分がある」という課題は残るものの、AIによるたたき台生成の有効性と工数削減効果は明らかであり、「生成AIは必ず使える、確信を持てた」という非常に前向きな評価をいただきました。このコラムでは、その検証結果とともに、FMEA作成に潜む根本的な課題と、それらに対する生成AIの有効性についてご紹介します。 FMEA作成における3つの課題ご承知の通り「FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)」は、車載システムの信頼性・安全性を向上させる必要不可欠な設計作業のひとつです。しかしその一方で、作成やレビューにかかる労力が大きく、多くの開発チームにとって「やりすぎになりがちな成果物」の代表格でもあります。実際の現場では、以下のような課題を抱えています。 経験と知識に大きく依存し、属人化しやすい機能安全やフェールセーフ設計など、FMEAには高度な専門知識が必要です。そのため、成果物の質が担当者のスキルや経験に左右されやすく、再利用性やナレッジ共有が難しくなる傾向があります。 組み合わせが膨大で、表の編集作業が重い制御ブロックと信号の組み合わせは膨大で、それぞれに対して故障モードや影響、対策を網羅的に記述しようとすると、膨大なセル数のFMEA表が出来上がります。手作業による展開は工数負荷が高く、更新ミスのリスクもあります。 多人数によるレビューが不可欠だが非効率FMEAの信頼性を担保するためには、複数の有識者を集めたワークショップ形式のレビューが必要となるケースも多く、調整と討議に時間も手間もかかり、調整に追われる場面も多く見受けられます。 生成AIは、これらの課題にどう貢献するのか?今回の検証では、ChatGPTに対して「構成ブロック図」「各ブロックの機能概要」「入力信号のリスト」を与えることで、自動的にFMEAのたたき台を生成するプロセスを試しました。その結果、以下のような具体的なメリットが得られました。 ナレッジの再利用・標準化が可能にChatGPTには、FMEAの基本構造や業界でよくある失敗事例、設計パターンがすでに学習されています。そのため、個人の経験に頼らず、一定の質で初期案を出力できるのが大きな強みです。もちろん、閉域ワークスペースで企業独自のテンプレートや言い回しをAIに学習させることで、自社専用のFMEAナレッジベースを築くことも可能です。 膨大な組み合わせを高速処理従来はエンジニアが手動で展開していたパターンを、AIが論理的に組み合わせて網羅的に出力します。これにより、記述作業にかかる時間を大幅に短縮し、レビューや検討といった本質的な作業に集中できます。今回はFMEA作成に必要な入力情報が準備できた状態から、設計者の手作業だと数週間必要な「FMEA初稿作成」が数時間で対応可能でした。(作業時間短縮試算:80時間(10日間)が4時間に!)実際の工程としては、FMEA初稿作成以降の作業工数(レビューや成果物としての仕上げ)が必要ですが、今回は未評価でした。 レビューを「ゼロからの作成」から「AI出力の確認」へシフト生成されたFMEAはあくまで「たたき台」であり、人による確認と修正は必須です。しかし、ゼロから考えるのではなく、AIが出力した案に対してレビューを行うスタイルに変えることで、ワークショップの効率が格段に向上します。 FMEAにとどまらない、生成AIのポテンシャルこの検証を通じて、私たちはFMEAだけでなく、他の設計成果物(機能仕様書、検証仕様書など)への展開可能性でも同様に大幅な効率改善ができると強く感じました。これからの開発プロセスとして、「まずAIにドラフトを書かせる→人がレビューして精緻化する」という流れが、従来の作業スタイルを大きく変える可能性を持っています。我々としては車載システム開発プロセスに生成AIの活用を組み込みたいといったご要望に対応していきたいと考えています。 おわりに創造的な開発のために開発現場はこれまで、品質を担保するために膨大なドキュメント作成やレビュー作業を背負ってきました。しかし、そのプロセスが目的化してしまえば、本来注力すべき設計検討や創造的な活動の時間が圧迫されてしまいます。生成AIは、こうした作業を効率化するだけでなく、エンジニアが本来注力すべき「創造」や「発想」に時間を取り戻すツールでもあります。「やりすぎ設計書」に終止符を打ち、知的資産を活かしたスマートな開発プロセスへ。生成AIとの協調は、技術者の働き方そのものを変える可能性を秘めています。今回のコラムはいかがでしたでしょうか?本コラムの内容が、生成AIの活用や開発プロセスの見直しのきっかけになれば幸いです。お客様のご相談内容に対する具体的な実施内容や効果を導入事例としてまとめました。こちらもお目通しいただければ幸いです。生成AIを活用した設計ドキュメント作成プロセス効率化支援ご相談いただければ、これまでの経験を活かしてお力になれることもあるかもしれません。どうぞお気軽にお問い合わせください。 (越智功)

コラム

Automotive SPICEを使って業務は改善されているのか?

はじめに「Automotive SPICEを導入してプロセスを整備したけど、本当に現場の役に立っているの?」そんな声を、あなたの組織でも聞いたことはありませんか?たとえば「開発標準は整っているけれど、実際には形骸化していて使われていない」「レビューやチェックリストの数は増えたが、かえって手間が増えて効果が見えない」--こうした現場のモヤモヤは、多くの組織で共通しています。Automotive SPICEの導入やアセスメント対応を契機に、プロセスを整備したものの、「かえって開発がやりにくくなった」「成果が感じられない」という声が上がることも少なくありません。この背景には、“プロセスを定義すること”と“改善すること”が混同されているという問題があります。文書化や標準化はあくまでスタート地点。定義されたプロセスが現場に定着し、実際の課題に対応して見直されてこそ、本当の意味での「改善」と言えます。プロセス改善グループ(EPG:Engineering Process Group)は、開発組織のパフォーマンスを高めるために活動していますが、定めたルールや仕組みも、現場に馴染まなければ“形だけの改善”となり、かえって現場の負荷や反発を招く結果にもなりかねません。本コラムでは、Automotive SPICEなどの成熟度モデルを活用するうえで、プロセス改善が“やりっぱなし”にならず、継続的に成果へとつながっていくための鍵として、EPGと現場との対話、そして改善サイクルの回し方について考えてみます。「やりっぱなし」から脱するには、現場との対話が必要プロセス改善活動のなかで、ありがちな失敗の1つが「とにかく標準を整えよう」「レベルを上げよう」といった目的化の罠です。プロセスの完成度やドキュメントの網羅性を追い求めるあまり、現場の課題感や使い勝手が置き去りになる――その結果、「改善活動が負荷として認識されてしまう」という状況を招いてしまいます。こうした“やりっぱなし”の背景には、「変えたら終わり」という思い込みが潜んでいます。しかし本来、プロセス改善は「一度仕組みを作って終わり」ではありません。運用され、計測され、見直されるというサイクルを回してこそ、本当の意味での“改善”が成立するのです。たとえば、ある開発チームでは、レビューの指摘数や重大バグの混入率といったKPIを継続的に追跡していました。分析の結果、「アーキテクチャ設計レビューでの指摘が少ない一方で、後工程でのバグが多い」という傾向が明らかになり、EPGが設計レビューの観点やタイミングを見直す取り組みを支援しました。具体的には、レビュー観点にシナリオベースの確認を加えたり、関連ドキュメントの整合性チェックを強化するなどして、設計段階での問題発見率が向上。結果として、後工程での重大な不具合流出が有意に減少しました。このように、定量的な観測と実践的なフィードバックを通すことで、改善活動が“やりっぱなし”で終わらず、継続的に改善サイクルを回していく原動力になります。現場に「関わる」ことで、プロセスが生きてくる改善活動が現場に受け入れられ、成果につながるかどうかは、EPGがどれだけ現場に寄り添っているかにかかっています。ある組織では、EPGメンバーが現場のレビュー会議にオブザーバーとして参加することで、レビュー観点の形骸化やチェックリストの実態に合わない運用に気づくことができました。「この観点は、実際には誰も使っていない」「この手順は無理がある」――そんな声を拾い、現場とともにプロセスや観点を見直した結果、レビューの質が改善し、抜けや漏れが減るという成果が生まれました。これは、EPGが“改善する側”ではなく、“一緒に改善する仲間”になることで初めて得られた成果です。プロセス改善を“プロセスのための活動”にせず、現場の本音や実情を反映するためには、こうした「対話」「関わり」「フィードバック」が欠かせません。さいごに今回のコラムはいかがでしたでしょうか?Automotive SPICEは、業務をより良くするための仕組みであるはずです。しかし現実には、「形だけの対応」や「負担ばかり増える」といった声も少なくありません。本コラムが、「改善は本当に現場の役に立っているか?」という視点で、今一度プロセス改善のあり方を見直すきっかけになれば幸いです。EPGという立場だからこそできる“現場との対話”や、“小さな気づき”の積み重ねが、Automotive SPICEを「業務改善のためのツール」として真に機能させる第一歩になります。現場のリアルに触れながら、実践的な改善のヒントを共有できるよう、これからも発信していきたいと思います。(安部宏典)