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使えるプロセス vs 使われないプロセス:決定的な違いと成功事例

「うまくいくときもあれば、失敗するときもある」プロセス改善は、こうした属人的な開発から脱却し、誰がやっても一定の品質・納期・コストを再現できる仕組みをつくるための重要な取り組みです。しかし近年、開発の複雑化や規格対応の厳格化により、品質問題や納期遅延のリスクはますます高まっています。その一方で、監査や認証取得を目的に整備された“形だけのプロセス”が現場で使われず、改善が止まってしまうケースが増えているのも事実です。良いプロセスも、現場で使われなければ意味がありません。では、なぜプロセスは使われなくなるのか?どうすれば現場で本当に役立つプロセスになるのか?このコラムでは、私たちの現場支援の経験をもとに、成功のヒントをいくつかご紹介します。 ❖プロセスを定義することがゴールになっていませんか?Automotive SPICEやCMMIなどの規格に基づいて開発プロセスを構築することは、多くの組織で採用されている一般的なアプローチです。しかしそこには落とし穴があります。それは、開発上の問題を解決するためのプロセス構築だったはずが、いつしか「プロセスを定義すること」に目的がすり替わってしまうことです。その結果、どのような状態になるのか――以下の現象が多くの組織で共通して見られます。 -プロセス文書は立派だが、現場ではほとんど参照されない-「監査対応のために作っただけ」という空気が漂っている-改善どころか、プロセスが更新されないまま放置されている そこには認証取得が強い動機になっていたり、目に見えるプロセス文書自体の完成度で改善を評価する文化がそうさせているのかもしれません。しかし、こういった結果を引き起こすと、せっかく時間とコストをかけて作ったプロセスが“使われないプロセス”として資産化されてしまい、いわゆる宝の持ち腐れになってしまいます。そして、顧客や経営層が期待した「品質向上」「効率化」「リスク低減」といった投資対効果が得られず、一過性の活動に終わってしまうのです。 ❖使えるプロセスに共通する特徴一方で、現場で「使えるプロセス」を実現している組織には、共通する特徴があります。私たちが支援してきた成功事例を振り返ると、次の4つがキーポイントとなっているようです。  改善の場にプロセスを使う現場も参加している本来、プロセスは開発現場で活用されるために存在します。そのため、現場の担当者はプロセス改善を「自分たちの業務を助けるための取り組み」として、前向きに捉えています。そのため、当事者である現場の担当者もプロセスづくりに積極的に関与しています。 規格用語ではなく、利用者の言葉でプロセスを定義している規格の表現をそのままプロセス文書へ転記することは否定すべきものではないのですが、規格の意図を理解して自分たちの表現でプロセスを定義することで、より明確に作業イメージができ、結果として「使ってみよう」という意識につながっていきます。 プロセスが日々アップデートされているプロセスの定着が成功している現場では、「プロセスが定義されてからが本当のスタート」と認識しています。そのため、現場が使えるプロセスにするためにプロセスの使用状況をよく観察し、“もっと良いプロセス”を常に追求し続けています。 プロセスのサポーターが現場の近くにいて、相談できる環境がある現場にとって今までとは異なるプロセスを適用することは、少なからず抵抗感や煩わしさを伴います。そんな時に、プロセスの意図や具体例を教えてくれるサポーターが近くにいることで安心感を生んでいます。その安心感が現場のプロセス定着を後押ししています。 ❖その状態を作るための3つのポイントでは、どうすれば「使えるプロセス」の実現につながっていくのでしょうか?私たちが現場で支援してきた経験から、次の3つの要素が重要と考えています。  “現場の負担感”を最初に測る多くの組織で失敗する理由の一つは、「改善が現場にとってどれくらい負担になるか」を考えずにプロセスを設計してしまうことです。私たちが見てきた成功事例では、プロセス導入前に「どこで手間が増えるか」「どの作業が嫌がられるか」をヒアリングし、その負担を減らす工夫を優先的に組み込んでいます。  “小さな成功体験”を早く作るプロセス改善は、一気に全社導入しようとすると失敗しやすいです。私たちが支援した企業では、まず一部のチームで試し、短期間で「便利になった」「手戻りが減った」という成功体験を作るようにしています。この小さな成功体験が口コミで広がり、自然と他のチームも「やってみたい」と動き出します。以下に、実際にあった小さな成功体験の事例をご紹介します。 ある自動車部品メーカーでは、全社標準プロセスを導入したものの、現場からは「手間が増えるだけ」、「結局、アセスメント対策でしょ」という声が上がっていました。そこで、まず一部のチームだけに改善を適用することを提案しました。 対象:納期遅延が多かった小規模プロジェクト改善テーマ:“レビューの抜け漏れ防止”に絞る新しいプロセス:既存ツールに簡単なチェックリストを追加する“だけ” 結果、レビュー抜けによる手戻りを想像以上に減らすことができ、チームからは「これなら負担にならない」、「むしろ楽になった」という声が出ました。この成功体験が社内で共有され、他のチームからも「うちでもやりたい」という声が自然に広がっていきました。  “プロセスを変える理由”を語り続ける現場がプロセスを嫌がる要因として、What(何を変えるか)は伝えているものの、Why(なぜ変えるのか)が伝わっていないケースが多いようです。「規格対応だから」「監査で必要だから」では、モチベーションは上がりません。成功している企業は、「このプロセスで残業が減る」「レビュー制度が上がり、品質問題が減る」といった現場にとってのメリットを、繰り返し伝え続けています。 ❖ものづくりの主役は『人』プロセスづくりも、ものづくりも、すべては私たち『人』が為せる業です。その『人』が変わるためには命令や指示だけではなく、3つのポイントで挙げたような人の想いや意識にアプローチする取り組みも必要です。その上で、改善に関わる経営層、EPG(Engineer Process Group)、現場が一体となり、血の通ったプロセスをつくり、運用することが、すべての課題解決の根底にあると考えます。とはいえ、何もかも自分たちで計画を立てて体制を作り上げていくのは至難の業です。私たちは、その改革に加わり、一緒に手を動かし、皆様と一緒になって課題解決をすることを得意としています。まずはお気軽にご相談ください。 お問い合わせはこちら(弊社コンサルタントがご相談を承ります)https://www.bgarage.co.jp/contact/ (長澤克仁)

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【Webinar動画公開】第5回 Webinar ~ SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準 ~

先日開催した、「第5回 SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準」の Webinar動画を、弊社公式 YouTube に公開しましたのでお知らせいたします。ぜひ、ご視聴ください。 ▼ご視聴はこちらから:https://youtu.be/AFSfxJX5JHA▼タイムライン  00:00 オープニングModeling & Simulation SPICE 概要と構造02:54 M&S SPICEとは何か 05:31 M&S SPICE開発の背景10:25 M&S SPICEの文書構成と参照モデル 14:14 M&S SPICEの構造 プロセス概要 17:27 信用できる決定プロセス群(DEC)の構成 18:39 モデリングおよびシミュレーションエンジニアリングプロセス群(MSE)の構成19:56 信憑性保証プロセス群(CRD)の構成21:12 【サンプル】DEC.1 エンジニアリングおよび決定タスク分析23:22 【サンプル】MSE.2 シミュレーション設定要求分析 25:03 【サンプル】CRD.1 重要度特定 Automotive SPICEとの関係とModeling & Simulation SPICE を取り巻く動向 27:23 Automotive SPICEとの関係 31:45 M&S SPICEの利用シーンとは?37:56 EOMの利用方針は? 39:51 開発現場ではどんな活用をすれば良い?43:25 Q&A

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B’zine – 2025年9月号(プロセスモデリング:プロセス文書化のテクニックなど)を発行しました

9月に入ってからもしばらく猛暑日続きでしたが、お彼岸を過ぎて漸く秋らしい涼しい日が訪れました。もうすぐ秋の紅葉シーズン、待ち遠しいですね。 B'zine 9月号を発行いたしました。動画版(約3分)も公開していますので、弊社公式YouTubeより是非ご視聴ください。https://youtu.be/euwjFqSv_w8     B’zineは、1回/月のペースでの配信しています。ご興味のある方は、ここから登録をお願いいたします。   B'zineビジネスガレージ通信(2025年9月号)  B’zine 9月号をお届けします。9月に入ってからもしばらく猛暑日続きでしたが、お彼岸を過ぎて漸く秋らしい涼しい日が訪れました。もうすぐ秋の紅葉シーズン、待ち遠しいですね。 【今月のトピックス】 イベント:Webinar:SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準を9月24日に開催しました コラム:アセスメントを活かす!改善を定着させる4つのポイント コラム:プロセスモデリング ~ プロセス文書化のテクニック コラム:進捗計画の精度向上とタイムリーな計画変更を目指して -- 成長曲線適用アプローチの勧め 【イベント】 Webinar~SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準~を9月24日に開催しました当日の動画は弊社YouTubeチャンネルで後日公開予定です。公開次第、弊社ホームページでお知らせいたします。 11月Webinar(予定):~ 生成AIでFMEA作成してみたら ~生成AI(ChatGPT)を活用することで、FMEAの作成期間とリソースを劇的に削減した事例をご紹介します。 【コラム】 アセスメントを活かす!改善を定着させる4つのポイント皆様の中には、Automotive SPICEなどのモデルに基づいたアセスメントをした、もしくは受審した経験のある方が多くいらっしゃるかと思います。では、そもそも何のためにアセスメントをするのでしょうか?レベル獲得をアピールするためでしょうか?商権獲得の条件になっているからでしょうか?確かにそういった事情もありますが、その事情に固執しすぎるとその一瞬のためだけにプロセスを整備する、いわば一過性の取り組みになってしまう場合があります。そこで今回は、アセスメントの本来の目的とアセスメントの有効な活用事例についてご紹介したいと思いますので、ご一読ください。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1364/ プロセスモデリング~ プロセス文書化のテクニック  前回のコラム(プロセスとは何か?)では、開発プロセスについて考察し、プロセスを文書化する際のヒントと注意点についてお伝えしました。今回は、プロセスを文書化する際のモデリングのテクニックについてご説明いたします。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1399/ 進捗計画の精度向上とタイムリーな計画変更を目指して -- 成長曲線適用アプローチの勧めプロジェクト計画の作成に苦労されているプロジェクトマネージャは多いのではないでしょうか。・ プロジェクト計画書テンプレートに沿って作成しているが、記載事項が多く、作成に想定外の時間を要している。・ プロジェクト計画に対して変更が発生する度に計画書を修正しなければならないので、面倒な作業が増えるので計画作成自体を無駄作業と感じている。プロジェクト管理の基本である進捗計画作成は非常に重要ですので、いろいろな成果物作成や作業の進捗計画を効率的に作成/変更できる成長曲線アプローチを紹介します。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1383/

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進捗計画の精度向上とタイムリーな計画変更を目指して — 成長曲線適用アプローチの勧め

はじめにプロジェクト管理の基本は、プロジェクト計画の作成および計画に基づいたプロジェクト遂行を管理することですが、プロジェクト計画の作成に苦労されているプロジェクトマネージャは多いのではないでしょうか。 プロジェクト計画書テンプレートに沿って作成しているが、記載事項が多く、作成に想定外の時間を要している。 プロジェクト計画に対して変更が発生する度に計画書を修正しなければならないので、面倒な作業が増えるので計画作成自体を無駄作業と感じている。プロジェクトの利害関係者(特にスポンサーと顧客)は、そのプロジェクトが定められた予算、納期、要求品質で完了できることを期待しています。プロジェクトマネージャはプロジェクトが計画通りに進むように進捗管理すると共に、プロジェクト遂行途中で進捗状況を定期的に利害関係者に報告する必要があります。プロジェクト管理の基本である進捗計画作成は非常に重要ですので、いろいろな成果物作成や作業の進捗計画を効率的に作成/変更できる成長曲線アプローチを紹介します。成長曲線適用アプローチを活用することにより、以下の効果が期待できます。 目標成果物に対する作成計画(作業開始日と完了予定日)を指定するだけで、成果物完成までの進捗計画を自動作成できます。 成果物の作成実績を定期的に入力するだけで進捗推移と進捗計画と実績の乖離の可視化できます。 進捗遅れに対するタイムリーな対策発動可否判断が可能になります。 途中で計画自体を変更する場合は、完了予定日を変更するだけで簡単に計画修正が実施できます。1.成長曲線の適用とは成長曲線とは生物の個体数、新製品の販売数、バグ発見数など、当初は少なく中途で大きくなり、その後終息するような現象を表すS字グラフを成長曲線といい、代表例としてゴンぺルツ曲線があります。一般的に、プロジェクト進捗も成長曲線と同様な推移を示すことが多いため、進捗管理に成長曲線を適用することで、計画精度向上と計画作成作業の効率化が期待できます。ゴンぺルツ曲線(関数)の概要を以下に記載します。ゴンぺルツ関数を用いれば、管理対象目標値(K)を指定するだけで、時間軸の変数(x)に対する管理対象の累積値(y)が求められます。次に、期間3ヶ月(10月1日~12月31日)、出来高目標値: K=1 で作成した進捗計画表作成例(管理周期:週)と、進捗管理表からの進捗グラフ生成例を紹介します。 x :10月1日(開始日)を -3 に、12月31日(完了日)を10 に対応させ、途中区間を管理周期(週)に、x の値を日数比例で計算して進捗計画表に入力する。 出来高目標値: K=1 を進捗計画表に入力する。 y :ゴンぺルツ関数を使用して、x 時点の計画値 y の値が自動計算され、進捗計画表に表示される。 週次で出来高実績値を進捗計画表に入力する。 進捗計画表に入力したデータに基づいて、進捗グラフが自動生成される。 進捗グラフに基づいて、出来高計画と出来高実績の経緯と乖離を定量分析し、実施すべき対策を考える。2. 進捗計画変更に対する対応プロジェクト期間中には、要求仕様の追加/変更、リソース調達、予期せぬ問題発生、事業環境の変化、社会情勢の変化、進捗遅れ等の内部・外部要因により、一般的にプロジェクト計画見直しが必要な場面が複数回発生します。よくある事例として、プロジェクト計画書の進捗計画を更新しないまま、現場での臨機応変な対応を優先し、進捗計画は後で更新すれば良いと考えがちになります。一旦この状況に陥ると、後追いで進捗計画を更新するのが億劫になり、結果的には当初作成したプロジェクト計画書が形骸化し、計画との乖離を管理することができなくなってしまいます。進捗計画の変更が必要となる場合は、具体的には殆どの場合出来高目標値(プロジェクト規模見積もり)と期間の変更ですので、ゴンぺルツ曲線を適用した計画作成では出来高目標値K、開始日/終了日の変更となります。これらのパラメータ変更だけで簡単に進捗計画全体の更新ができるので(出来高実績は変更無)、タイムリーな進捗計画変更が可能です。また、初期から進捗計画更新の履歴を保管することで、履歴データ分析による進捗計画自体の品質改善活動にも役立ちます。出来高計画値の変更( 1→ 1.4 )、進捗遅れ発生(一週間)により、進捗計画を変更した事例を紹介します。 x :10月1日(開始日)を -3 に、2月4日(完了日)を 10  に対応させ、途中区間を管理周期(週)に、x の値を日数比例で再計算し、進捗計画表の期間を延長する。 進捗計画表に入力済の出来高目標値を、K= 1.4 に変更する。 y :ゴンぺルツ関数を使用して、x 時点の計画値 y が自動計算され、進捗計画表に表示される。 記入済の週次の出来高実績値はそのままの値で変更しない。 進捗計画表に入力した変更後のデータに基づいて、進捗グラフが自動生成(更新)される。 更新された進捗グラフに基づいて、出来高計画と出来高実績の経緯と乖離を定量分析し、実施すべき対策を考える。 3. ゴンぺルツ曲線 の適用範囲ゴンぺルツ曲線を適用した計画作成と進捗管理は、以下のようなプロジェクト管理のさまざまな場面に適用できます。 プロジェクト全体の進捗計画作成と進捗管理 開発機能毎/開発担当者毎の開発計画作成と進捗管理 開発機能毎/検証担当者の検証計画作成と進捗管理(品質管理) システム/ソフトウェア全体の検証計画作成と進捗管理(品質管理) 問題発生予測作成と進捗管理(品質管理)まとめ成長曲線アプローチを活用した進捗管理について紹介しました。成長曲線に基づいて進捗計画を作成すると、進捗計画の精度は向上します。進進捗計画と進捗実績をグラフ化(可視化)し、乖離を分析して進捗遅れが発生していればその対策を考えて実施することが、のタイムリーなリカバリー対策となります。また、必要に応じて、進捗計画自体を変更する必要があります。プロジェクトマネージャはプロジェクト全体の進捗管理や品質管理に、開発担当者は開発機能の開発計画作成と進捗管理に、検証担当者は検証計画作成と進捗管理にと、成長曲線アプローチを各担当業務に応じてスモールスタートで適用してみてはいかがでしょうか。本コラムでは成長曲線を適用した進捗計画作成の効率化について紹介しましたが、プロジェクト計画作成、プロジェクト見積もり、定量的進捗管理、進捗分析等にご興味あるかたは、ぜひ弊社実践トレーニングの案内をご参照ください。プロジェクト管理トレーニングのご案内はこちら→https://www.bgarage.co.jp/training/281/(海農公宏) 

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プロセスモデリング ~ プロセス文書化のテクニック

前回のコラム(プロセスとは何か?)では、開発プロセスについて考察し、プロセスを文書化する際のヒントと注意点についてお伝えしました。今回は、プロセスを文書化する際のモデリングのテクニックについてご説明いたします。 プロセス文書は、どのような用途で使われるのか?簡単に言うと、プロセスは2種類の使われ方に分類されます。 「組織標準プロセス」として全プロジェクトがプロセスを使う場合 このケースでは、扱う製品や開発ライフサイクルの異なるプロジェクトが、標準プロセスを自分のプロジェクト用にテーラリングして使用することになります このため、プロセスは各プロジェクトの用途に合わせた柔軟な選択や、つなぎ合わせが可能な形式で表現することがポイントです プロセスはフォーマルな形式で文書化される必要があり、Automotive SPICE 能力レベル3で求められるプロセス状態にもっともフィットした形式と言えます 「プロジェクト内のルール」として同じプロジェクト内でプロセスを使う場合 このケースは、同じプロジェクト内の業務フローや作業手順をプロジェクト内で共有する使い方です このプロセスを他のプロジェクトが使用することはありませんので、プロジェクトの中で自由な方法で文書化すればよく、形式的な制約もありません プロセスモデリングの考え方ここでは、フォーマルな形式でプロセスを文書化していく場合に有効な「プロセスモデリング」の考え方をご紹介します。 プロセスは、3つのレベルを用いて定義すると、プロセスの組み換えや、その後発生する改善が容易にできるとされています。すなわち、次のような3階層に分けることを念頭にプロセスの各要素を定義していくことが推奨されます。 抽象的なレイヤープロセスモデリングでは、Universal Process Modelと表現され、上位レベルの概要を提供し、方針を具体的に表現するレイヤーです。例えば、「すべての作業はベースラインに統合される前にインスペクションを受けること」のように、基本方針を定義することになります。 現実的なレイヤープロセスモデリングでは、Worldly Process Modelと表現され、上位レベルの方針を実現するための手順を確立するレイヤーです。具体的には、作業者の作業順序をガイドし、作業に必要な条件と結果を定義し、詳細な手順や成果物のテンプレートなどは、適宜下位レイヤーの文書を参照することになります。例えば、「いつ、だれが、どのようにSQA監査を実施する」のような作業レベルの手順を定義することになります。 詳細なレイヤープロセスモデリングでは、Atomic Process Modelと表現され、極めて詳細な手順を確立するレイヤーです。成果物を作成する手順やテンプレートなどが該当します。例えば、「アーキテクチャ設計の設計技法」、「アーキテクチャ設計書テンプレート」などを定義することになります。 プロセスアーキテクチャ設計の事例 プロセスモデリングの考え方を参考に作成したプロセスアーキテクチャ設計の事例をご紹介いたします。  本事例では、4階層のプロセスアーキテクチャを設計しましたが、手順はおおむね次の通りです: プロセスの階層を決定する 各階層で作成するプロセス文書を決定する プロセス文書のフォーマットを決定する プロセス文書を作成する 作成したライフサイクルにプロセス部品を当てはめプロセスを作成するここで注意していただきたいのは、プロセスアーキテクチャはプロセスの静的な構造であるということです。プロセスの動的な側面では、ここで作成したプロセス文書(アクティビティ、タスク、プロセス資産など)をプロセス部品として捉え、プロセスは部品を連結して作成するという前提に立っているということです。この考え方は、いわゆるオブジェクト指向のアプローチを踏襲しています。OMG(Object Management Gruop)から、SEPM(Software and System Process Engineering Metamodel)が発行されているので、興味のある方は参照してみてください。  さいごに:Automotive SPICE 能力レベル2のプロセス文書今回は、Automotive SPICE 能力レベル3で必要となるフォーマルな形式による組織標準プロセスの作成に焦点をあてて説明してきました。最後に、Automotive SPICE 能力レベル2で求められるプロセス文章の形式について簡単に触れておきます。能力レベル2の要点は、計画的に作業を進めることです。作業の計画を立てるには、何らかのプロセス文書は必要でしょう。しかしながら、今回説明したような部品を結合してプロセスを作成するようなことは求めていません。どのような形式であろうと、作業ルールがプロジェクト内に周知できるレベルの文書があれば問題ありません。最初から難しいレベルを求めず、まずは必要最低限のルールを決めて、計画的な作業ができる環境を整えてください。(日吉 昭彦)

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アセスメントを活かす!改善を定着させる4つのポイント

皆様の中には、Automotive SPICEなどのモデルに基づいたアセスメントをした、もしくは受審した経験のある方が多くいらっしゃるかと思います。では、そもそも何のためにアセスメントをするのでしょうか?レベル獲得をアピールするためでしょうか?商権獲得の条件になっているからでしょうか?確かにそういった事情もありますが、その事情に固執しすぎるとその一瞬のためだけにプロセスを整備する、いわば一過性の取り組みになってしまう場合があります。そこで今回は、アセスメントの本来の目的とアセスメントの有効な活用事例についてご紹介したいと思いますので、ご一読ください。 ■ アセスメントの本来の目的とは?Automotive SPICEやCMMI等のモデルに基づくアセスメントは、プロジェクトの現状を客観的に可視化し、次の改善につなげるための有効的な手段です。しかし、現場ではアセスメントが“イベント化”してしまい、評定や弱点ばかりに注目される傾向が見受けられます。その結果、アセスメントが一過性の取り組みとなってしまい、継続的な改善につながらないケースが多くなっています。皆様の現場では、アセスメントが継続的な改善に活用されていますでしょうか?様々な組織でお話を伺う中で、特に国内では”アセスメントのイベント化”の傾向が強いように感じています。 ■ 目標達成がゴールになってしまう落とし穴アセスメントの目的が「能力レベルの獲得」にすり替わると、達成した時点で改善活動が止まってしまいます。このような状況下ではプロセスの更新が行われず、最悪の場合、改善前の状態に戻ってしまうこともあります。数年前のことになりますが、私が過去にプロセス改善を支援した開発現場へ何年かぶりに訪れた際、そこで見たものは、以前定義したはずのプロセスが改善前の状態に戻っており、時間をかけて築いてきたプロセス資産や知見の多くが失われていた姿でした。その時は大きな虚無感と同時に、あるべき姿を”維持”できなければ意味がない、と感じた瞬間でもありました。そういった意味でも、アセスメントという、いわば「プロセス診断」を継続的に実施し、常に改善を前に進める取り組みが必要だと改めて感じています。 ■ アセスメントによる改善を定着させる4つのポイントここからは、アセスメントによる改善の機会を自組織に根付かせるための4つのポイントをご紹介します:① まずは小さく始めてみる 10数プロセスを一度のアセスメントで実施する必要はありません。 主要なプロセスや、その中の一部のベースプラクティス(BP)に絞って実施し、小刻みに改善を繰り返す方法も効果があります。② 現場と一体で進める 開発・QA・マネジメント層が一体となって推進することで、組織全体の意識を高めることができます。 改善活動の体制を構築する際には、影響力のある人材の選任が重要です。③ 質の高いフィードバック アセスメントによって問題の本質となる指摘・弱みを抽出することで、改善の方向性を明確にすることができます。 よってアセッサーは、関係者全員が改善の方向性に納得できるよう、根拠のあるフィードバックをする必要があります。④ 成果の可視化 コスト削減、納期短縮、品質向上など、改善によって得られた成果をプロジェクトや管理者層が実感できるようにします。 成果の大小にかかわらず、改善結果を共有することが重要です。このような取り組みを通じて、アセスメントは組織にとっての“生活必需品”となり、日常的な改善活動の一部として定着していきます。 ■ 私たちが支援できること改善が停滞する主な原因として、以下の2点が挙げられます。  改善の目的が「レベル獲得」へとすり替わってしまうこと 現場にとって改善の効果が実感しづらいこと こうした状況を打開するためには、まず「アセスメント」という手法を活用し、問題の本質を客観的に可視化することが重要です。質の高いアセスメントは、課題の核心を捉え、改善の方向性を明確にする力を持っています。さらに、アセスメントを一部の専門家だけの取り組みに留めるのではなく、開発・QA・マネジメント層が一体となって継続的に推進することで、その効果を最大限に引き出すことができます。 私たちは、以下のような支援を通じて、高品質なアセスメントの定着と改善活動の加速に向けたサポートをしています: 組織にメリットのあるアセスメントが提供できる、社内アセッサーの育成 アセスメントとプロジェクトが共存・共栄する仕組みづくり SEPG(Software Engineering Process Group)と連携したプロセス改善支援 アセスメントでプロセスを最速改善したい、改善を組織に根付かせたい、という思いのある方は、ぜひ弊社コンサルタントへお気軽にご相談ください。 こちらの関連記事もぜひご覧ください。[コラム]Automotive SPICEを使って業務は改善されているのか?https://www.bgarage.co.jp/news/1240/ [コラム]Automotive SPICEの活動を効率良く進めるためにhttps://www.bgarage.co.jp/news/1031/ (長澤克仁)

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B’zine – 2025年8月号(Webinar開催:SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準など)を発行しました

今夏は異例の猛暑日や渇水が続いたと思えば、日本各地で集中豪雨や洪水による大規模災害も併発しました。夏季休暇で心身共にリフレッシュできたでしょうか? B'zine 8月号を発行いたしました。動画版(約3分)も公開していますので、弊社公式YouTubeより是非ご視聴ください。https://youtu.be/LH-sSwVuOFA     B’zineは、1回/月のペースでの配信しています。ご興味のある方は、ここから登録をお願いいたします。   B'zineビジネスガレージ通信(2025年8月号) B’zine 8月号をお届けします。今夏は異例の猛暑日や渇水が続いたと思えば、日本各地で集中豪雨や洪水による大規模災害も併発しました。夏季休暇で心身共にリフレッシュできたでしょうか?  【今月のトピックス】 イベント:9月24日開催Webinar: SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準 動画公開:7月Webinar(Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介)の動画を公開しました コラム:プロセスとは何か? ~ 開発プロセスについて考えてみよう コラム:要求仕様に関する不具合発生を防止する -「W字モデル」導入のメリットと課題 導入事例:生成AIを活用した、技術コンサルティングの導入事例を追加しました 【イベント】 9月24日Webinar開催~SPICE で読み解くモデリング&シミュレーションの品質基準~のご案内Intacsから2024年11月にドラフトとして公開された「Modeling & Simulation SPICE」の内容をご紹介します。2025/09/24 WED午後16:00 – 午後17:00 (JST)参加ご希望の方は、こちらからお申込みください→https://www.bgarage.co.jp/news/1336/ 11月Webinar(予定):~ 生成AIでFMEA作成してみたら ~生成AI(ChatGPT)を活用することで、FMEAの作成期間とリソースを劇的に削減した事例をご紹介します。 【動画公開】 7月に開催したWebinar(Automotive SPICE/機能安全/サイバーセキュリティを両立する設計アプローチと事例紹介)の動画を公開しました動画は弊社公式YouTubeチャンネルからご視聴いただけます:→https://www.youtube.com/watch?v=tD3GhK7PWrA【コラム】 プロセスとは何か?~ 開発プロセスについて考えてみよう皆さんは、「プロセス」という言葉の意味を、うまく説明できますか?筆者は、当初なかなかうまく説明できませんでした。プロセスという単語は、そもそもカタカナで記載される単語であり、日本語の解釈が数多くある言葉だと思います。従って開発プロセスとして使う場合は、プロセスという言葉の使用環境を理解して、その解釈の適合性を整理しておくことが、スタートラインだと考えています。今回は、「プロセス」という言葉との向き合い方について、そのヒントをお伝えします 。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1223/  要求仕様に関する不具合発生を防止する -「W字モデル」導入のメリットと課題「出荷直前/出荷後に要求仕様通りにソフトウェアが動作しないことが発覚し、その改修作業で想定外の手戻り作業による大幅な出荷遅延と追加費用が発生した。」ソフトウェア開発プロジェクトで上記のようなトラブルを経験したことはありませんか?一般的に、要求仕様に関連する不具合は、最終工程であるソフトウェア検証まで検出できないため、手戻り作業や改修コストが予想以上に大きくなります。要求仕様に関する不具合発生の防止策の一つとして、上流工程の品質向上を目的とした「W字モデル」の考え方とプロセスを導入するというアプローチをご紹介します。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/news/1309/ 【導入事例】  生成AIを活用した、技術コンサルティングの導入事例お客様より『過剰に工数がかかり過ぎないFMEA作成手順を検討したい』とご相談をいただきました。生成AI(ChatGPT)を活用することでFMEA作成をどれほど効率化できるかを検証した、その実施内容と効果をまとめたものを掲載しています。詳細はこちら→https://www.bgarage.co.jp/case/1286/

コラム

要求仕様に関する不具合発生を防止する - 「W字モデル」導入のメリットと課題

はじめに「出荷直前/出荷後に要求仕様通りにソフトウェアが動作しないことが発覚し、その改修作業で想定外の手戻り作業による大幅な出荷遅延と追加費用が発生した。」ソフトウェア開発プロジェクトで上記のようなトラブルを経験したことはありませんか?一般的に、要求仕様に関連する不具合は、最終工程であるソフトウェア検証まで検出できないため、手戻り作業や改修コストが予想以上に大きくなります。要求仕様に関する不具合の原因として、以下のようなケースが考えられます。 要求分析工程で、開発者が誤った(曖昧な/不十分な)要求仕様書を作成してしまった。 検証者は、検証工程で誤った(曖昧な/不十分な)要求仕様書に従って検証仕様書を作成して検証を実施したため、検証検証結果の妥当性の確認が不十分だった。 開発者と検証者間の情報共有不足により、検証工程で検証者が要求仕様書を十分に理解できないまま、誤った検証仕様書を作成して検証作業を実施したため、十分な検証ができていなかった。要求仕様に関する不具合発生の防止策の一つとして、上流工程の品質向上を目的とした「W字モデル」の考え方とプロセスを導入するというアプローチがあります。 1. 「V字モデル」とはまず最初に、ソフトウェア開発で広く採用されている「V字モデル」について簡単に説明します。 ウォーターフォール開発モデルでは、各開発プロセスの上流から下流に向かって、要求分析、設計、検証と各プロセスを進め、基本的に後戻りはしません。 V字モデルは、ウォーターフォールモデルに対して、開発工程と検証工程の各プロセス間の対応関係を明確にした開発モデルです。一般的に、V字モデルにおける開発者と検証者の業務分担は以下となります。   2. 「W字モデル」とは次に、「W字モデル」について、「V字モデル」との違いに着目して簡単に説明します。 W字モデルは Andreas Spillner 氏が提唱した「上流工程で検証計画を同時期に作成することで、開発工程全体短縮(開発効率化)を実現する」 というプロセスモデルに基づいており、開発と検証を交互に繰り返す活動が 「W字」 に見えることから、W字モデルと呼ばれています。 W字モデルはV字モデルを拡張した開発モデルで、開発工程完了後に検証を行うのではなく、開発と検証をリンクさせ、開発段階から検証者が参加して検証準備を同時並行で行うことを特徴としています。W字モデルにおける開発者と検証者の業務分担は以下となります。   3.開発者、検証者の業務分担2章、3章で説明した「V字モデル」と「W字モデル」の違いを、各工程毎の開発者と検証者間の業務分担と実施時期に着目して表形式でまとめてみましたので、参考にしてください。   4.「W字モデル」導入のメリット「W字モデル」を導入することにより、開発作業と検証作業を並行して実施することで、次のような効果が期待できます。 要求仕様書や設計書を開発者と検証者が合同レビューすることで検証の知見が加わり、矛盾/欠陥の検出率向上します(作業成果物の品質の向上)。 早期検出と検証の知見を開発にフィードバックできるため、検証工程まで不具合を流出させた場合の改修費用との比較で、手戻り工数の大幅な削減が期待できます(開発効率化)。 開発/検証チーム間の協業体制が醸成され、プロジェクトメンバーの品質に対する意識が向上します。 5.「W字モデル」導入の留意点「W字モデル」を導入するにあたり、次のような考慮・認識しておくべき留意点があります。 W字モデルを導入するには、検証工程を前倒しにするなど開発プロセス全体に変革が必要で、体制構築と要員計画の見直し、チームのスキルセット向上等、多岐にわたる事前準備が必要となります。 W字モデルでは開発作業と検証作業の連携が密になり、リソース調達やプロジェクト管理が複雑になるので、開発者と検証者間の情報共有の仕組み構築や開発/検証ツール選定も相互連携を考慮して慎重に行う必要があります。 一般に高スキル者数は限られており、開発/検証チーム双方に高スキル者を同時にアサインすることは困難です。 開発段階から検証者が関与するためには、検証者にも開発者と同等レベルの仕様理解力、設計力、コミュニケーション能力が求められますが、プロジェクト管理者は開発チームへの高スキル者アサインを優先すると、開発/検証チーム間の対等な関係構築は困難になります。 W字モデル導入の効果を得るには、組織の開発プロセス(V字プロセス)が十分成熟していることが前提となります。 検証者が検証業務の分析/計画などの活動無しに検証作業を実施している組織では、Wモデル導入効果は期待できません。特にソフトウェア愛初経験豊富な検証者を確保できるかというところがネックとなりがちですので、上記の留意点を踏まえると本格的に「W字モデル」を導入するのは、少しハードルが高いと感じるかもしれません。ソフトウェアアーキテクチャ/詳細設計の設計レビューに、ソフトウェア開発経験が無い検証者が参加しても、お勉強会になりがちですが(勉強の成果は、自ら実施する検証作業の精度向上には役立ちます)、レビュー対象のドキュメントの品質向上効果はあまり期待できません。要求分析工程に限定すれば、評価者に追加要求されるスキルは仕様理解力となり(仕様理解力は文章読解力と同じ)、ソフトウェア設計経験の有無にはあまり関係ないと考えて良いので、「W 字モデル」のアプローチ導入に対するハードルは大幅に低下するのではないでしょうか。 まとめユーザ視点・仕様理解力を持った検証の専門家が要求仕様レビューに参加すれば、検証の知見を発揮して要求仕様の品質向上に大きく貢献できると思います。要求仕様に関する不具合は影響範囲・規模が一番大きいので、これを少しでも削減できれば大きな開発効率化が実現できます。まずは、要求分析工程に対して部分的に「Wモデル」を適用するというスモールスタートをトライしてみてはいかがでしょう。(海農公宏)