同じ失敗を繰り返さないプロジェクト管理 ─ 再発防止の実践ポイント
■なぜ、あの失敗は何度も起きるのか?
開発プロジェクトの合間に、こんな会話を耳にすることがあります。
「この前も同じような問題があったよね?」
「気を付けていたつもりだったけれど…また再発してしまった」
こうした状況は決して珍しくありません。多くの開発現場では、重大な問題が発生した際に「過去にも似た状況があった」と振り返るケースが少なくないと言われています。もちろん、プロジェクトで起きる問題の形や影響はさまざまで、個別の技術的課題や外的要因によるトラブルも存在します。それでもなお、現場を振り返ると、同じような状況や判断の迷いが重なった結果として問題が再発しているケースが見受けられます。
では、なぜ似たような失敗は繰り返されてしまうのでしょうか。
■同じ失敗が起きる主な要因とは?
ある車載ECU開発プロジェクトでの出来事です。
当初のプロジェクトの目的は「画面表示の起動時間を短縮する」ことでした。ところが開発途中で、「起動時にロゴアニメーションを入れたい」「警告メッセージの表示仕様も変更したい」「診断ログも取得できるようにしてほしい」といった要望が追加され、チームは「せっかくなら対応しよう」と順次取り込みました。しかし、誰も「起動時間短縮が最優先なのか、それとも新機能追加なのか」を明確に整理しないまま進めたため、「あるメンバーは表示品質を優先」「別のメンバーは起動速度を優先」「別の担当は診断要件の網羅性を重視」と、目指すゴールが少しずつズレた状態で開発が進んでしまいました。その結果、統合テストの段階で「起動時間が目標を満たさない」「ログ取得時に表示が遅延する」といった問題が同時に発覚し、大きな手戻りが発生しました。さらに、スケジュール遅延の兆候は早い段階で見えていたにもかかわらず、「どの時点で誰に相談するか」「何を優先的に削るか」が決まっていなかったため、対応は常に後手に回りました。このような問題は以前にも何回か起きていたようです。
同じ失敗が繰り返される背景には、
・目的と優先順位が共有されていない
・問題発生時の動き方が決まっていない
といった構造的な要因が背景にあるケースは少なくありません。目的が揃わないまま進めると、メンバーごとに判断基準がばらつき、問題が起きても対応の優先度や対処方針が統一されません。さらに、初動対応やエスカレーションのルールが明確でない場合、対応は場当たり的となり、問題の影響が拡大しやすくなります。その結果、納期や目先の対応を優先した暫定対処で収束させてしまい、根本原因が解消されないまま次のプロジェクトへ持ち越されます。そして同様の条件が重なったとき、類似したトラブルが再び発生する可能性が高まります。
■成功するプロジェクトが共通して実践している取り組み
前述の例のように、失敗の原因は個人の注意不足だけでなく、目的の共有不足や優先順位の不明確さ、問題発生時の対応ルールの欠如といった“進め方の仕組み”に起因しています。では、同じ状況に直面しても手戻りを最小限に抑え、着実に成果を出し続けるチームは、どのような工夫をしているのでしょうか。私の経験を基に、実際に効果のあった取り組みの一例をご紹介します。
1. 要求分析と優先順位決定プロセスを機能させる
要求が増え続けること自体は珍しいことではありません。問題は、優先順位を判断する基準や変更時の意思決定プロセスが明確でない場合、チーム内で判断軸がばらつくことです。成功している組織では、
- 最優先事項を判断する基準を定める
- 要求変更時に影響範囲(品質・性能・日程)を確認する
- 優先順位を見直す意思決定ルールを設ける
といった仕組みによって、要求分析プロセスが機能する状態を維持しています。例えば、変更要求が出た際に「最優先目標に影響しないか」を確認するチェック項目を設けるだけでも、判断のばらつきを抑えることができます。
2. 問題の早期解決を支える支援・エスカレーションの仕組み
プロジェクトは計画通りに進まない状況が発生することを前提に運営する必要があります。重要なのは、問題が顕在化した際に 誰が・どの段階で・どこへ相談するのか が明確になっていることです。とある組織では、進捗管理・課題管理・リスク管理といった基本的なプロジェクト管理プロセスは整備されています。そのうえで、現場だけでは判断が難しい状況に備え、経験豊富なPMや技術リーダーが横断的に支援する仕組みを設けています。現場ではこれを通称「駆け込み寺」と呼んでいます。この仕組みの目的は属人的な助言ではなく、
- 進捗遅延や品質リスクの早期検知
- 判断に迷う局面での意思決定支援
- 問題対応の優先順位整理
- 組織としての対応方針の統一
といった、プロジェクト運営プロセスを補完・強化することにあります。このような支援体制は大掛かりな組織でなくても導入可能です。例えば、
- PM経験者が週1回相談枠を設ける
- リスク顕在化時の相談ルートを明文化する
- 重要課題をレビューする横断ミーティングを設ける
といった小さな仕組みから始めることもできます。
3. 振り返りを“教訓化”につなげる仕組み
振り返りの重要性は多くの現場で理解されています。しかし実際には、「事実の整理で終わってしまう」「個人の反省に留まる」「次のプロジェクトに活かされない」といったケースが少なくありません。
効果的な振り返りを行う組織では、
- 結果の整理
- 原因の特定
- 再発防止策の決定
- 次回の実行ルールへの反映
をセットで行います。例えば、再発防止策をチェックリストや標準手順に反映し、次プロジェクト開始時に確認する仕組みを設けることで、経験を組織の資産として蓄積できます。
■あなたのチームでは、同じ兆候が起きていませんか?
失敗の再発は偶然ではなく、進め方の仕組みに起因することが少なくありません。そして、その仕組みを整えることで、同じ問題が繰り返される可能性は大きく減らすことができます。ここまでお読みいただき、「自分たちの現場にも当てはまる」と感じられた方も多いのではないでしょうか。
例えば、次のような兆候は見られませんか?
☑ チーム内の意思疎通に不安がある
☑ 課題が何度も再発し、改善が定着しない
☑ プロジェクト管理が“実態と合っていない”と感じる
☑ 組織としてのプロセスを整えたいが、どこから手を付けるべきかわからない
もし一つでも思い当たる点があれば、それは個人の努力ではなく、仕組みを整えることで改善できる余地があるというサインかもしれません。
「自社ならどこから手を付けるのが最短か」を整理したい場合は、1~2週間のクイック診断からご支援することも可能です。小さく始めて、現場に無理なく定着させる改善をご一緒に進めていきます。まずは、現状の困りごとや課題をお聞かせいただくだけでも構いません。
ご相談・お問い合わせはこちらから
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(長澤 克仁)