「テスト頼み」からの脱却──レビュー文化が品質を変える
※本コラムでは「品質保証」を、SQAによる監査に限定せず、設計段階から品質を作り込むためのレビュー活動や不具合予測・分析など、開発プロセス全体における品質向上の取り組みとして広く捉えています。
なぜ“テスト頼み”では不十分なのか?
製品開発における品質保証は、テスト工程に偏りがちです。多くの組織では、テストで検出された不具合をもって品質を評価し、設計工程でのレビュー指摘は記録されない、あるいは品質活動の一部として認識されていないことがあります。
しかし、品質は本当に“テストだけ”で保証できるのでしょうか?
テストは重要な工程ですが、あくまで後工程であり、設計段階での不具合をすべて検出できるわけではありません。特に組込み系開発では、タイミング依存や環境依存の不具合が多く、テストだけでは限界があります。設計段階での不具合を未然に防ぐには、レビューによる“作り込み”が不可欠です。
レビューで防げる不具合──“作り込み”の力
実際の開発現場では、テストでは検出が難しく、設計レビューによって未然に防げる不具合が少なくありません。
たとえば、割込み処理において、ある特定の条件下でのみ発生するフラグのクリア漏れによる不具合があります。これは、割込みが連続して発生した際に、ある処理パスでフラグのクリア処理が抜けてしまい、制御が意図しない状態に陥るというものです。こうした不具合は、テスト環境では再現が難しく、実機での長時間運転試験中に偶然発覚することもあります。
しかし、設計レビューの段階で割込み処理のフローや状態遷移を丁寧に確認していれば、「特定条件下でフラグのクリア処理が抜けている」という設計ミスを早期に指摘・修正できた可能性が高いのです。
他にも、周期処理の遅延、初期化漏れ、状態遷移の不整合、インタフェース仕様の不一致など、テストでは見逃されがちな不具合があります。これらは設計レビューで仕様と実装の整合性を確認することで、早期に対応可能です。
このような事例からも、レビューは設計段階から品質を“作り込む”ための、実効性の高い活動であることが分かります。
レビュー文化が根づいている組織の取り組み
ある開発組織では、レビュー工程を品質保証の中心に据え、設計やコードの段階で不具合を早期に検出・記録・分析する文化が根付いています。レビュー指摘はテスト不具合と同様に品質データとして扱われ、工程ごとの不具合予測と実績を比較することで、品質計画の達成度を定量的に評価しています。
たとえば、「今回の開発規模からは30件の不具合が作り込まれると予測されるため、テスト前までにその6割、18件以上をレビューで検出する」といった計画が立てられ、レビュー活動が品質保証の仕組みとして機能しています。
このような組織では、レビューはチェックリストの確認に留まらず、設計の妥当性を議論し、知識を共有する場として活用されています。
レビューが活かされない現場の課題
品質保証がテスト中心になっている
レビュー工程を品質保証の中心に据える文化が十分に定着していない組織も少なくありません。レビュー活動自体は行われていても、その成果が品質向上に十分に活かされていないケースが多く見られます。
レビュー指摘が品質データとして活用されていない
品質保証の仕組みがテスト結果中心に設計されていることが一因です。レビュー指摘は「コメント」や「改善提案」として個別に修正されることはあっても、品質データとして体系的に扱われることが少なく、品質指標に反映されていないケースが多く見られます。
記録方法が分析に適していない
レビュー指摘を品質データとして記録・分析すれば、品質リスクの傾向を把握し、戦略的な品質保証活動につなげることができます。しかし、指摘内容が個人のメモやメール、Excelファイルなどに分散していたり、記録項目が統一されていない場合、後から集計・分析することが困難になります。
組込み系開発特有の制約
特に車載ソフトウェア開発では、ハードウェアとの密接な連携や制約が多く、設計変更の影響範囲が広くなる傾向があります。このため、レビュー対象が多岐にわたり、限られた時間内で全てを十分に議論するのが難しい場面も少なくありません。
実験文化によるレビュー軽視
「動かしてみて確認する」という実験文化が根強く残っていることも関係しています。設計段階でのレビューによる品質の作り込みよりも、実機検証による問題発見に重きが置かれる傾向があり、レビューの位置づけが弱くなりがちです。
しかし、レビューには、テストでは検出が難しい不具合を未然に防ぐ力があることは、すでに述べた通りです。だからこそ、レビューを単なる形式的な確認作業に留めず、品質保証の中核として位置づけることが重要です。
まとめ:レビューが品質を変える第一歩
(安部 宏典)