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Automotive SPICE GP 徹底解説 その2 ~ GP2.1.3(責任と権限)

今回は、GP 徹底解説の第2段として、「責任と権限」についてお届けいたします。

実は、この「責任と権限」に関するプラクティスは、Automotive SPICE 3.1 と4.0で GP の番号や記述内容が多少変わっています。 アセスメントを実施していると、特に「権限」に関する考え方や、インタビューにおける受け答えが適切にできていないことが多い領域です。

 

当初、責任と権限に焦点を当ててコラムを書く予定でしたが、Automotive SPICE 4.0 で多少ニュアンスが変わっているようなので、まずは v3.1 と v4.0での記述の差分を確認してみることにします。

 

 

 

GP のタイトルは変わっているものの、「責任と権限」については意図の変更はありません。v4.0 では、プロセスの実行に関与する「人」だけでなく、「物理的・物質的」なリソースも含めてプロセスを実施するために必要な「リソース」に拡張されました。人的リソースに関しては、備考6にあるように「責任と権限」の定義については必ずしも正式な記述である必要はなく、決定されていれば良いと読み取れます。

 


人的リソースに課せられる要件;

本コラムでは、「人的リソース」に焦点をあてて、何を決定しておけば良いかを考察していきます。ここで重要なのは、能力レベル2で求められる「繰り返し同様の成果を出す」ために必要なことは何かということです。つまり、人が作業を遂行するにあたり(同様の成果を確保するために)必要なことを決めておくこということになります。

  • その作業を実施するために必要な「経験」・「知識」・「スキル」

  • その作業に関する「責任」と「権限」

  • その作業を実施した際に作成される作業成果物を管理するたの「責任」と「権限」

これらが、より良い作業成果を発揮するためには、重要な要素だと考えられています。

 

では、責任と権限では何が異なるのでしょうか? 意外と説明しにくいのではないでしょうか?

 


責任と権限の違いとは?

以下のように整理するとわかりやすいと思います。

(権限とは)

  • 意思決定を行い、命令を下す (権力・権利)
  • 権限は委譲できる
  • 職制や組織構造に基づいて付与される
  • 意思決定の結果について責任を負う

 

(責任とは)

  • タスクや職務を遂行し、その結果について責任を負う (義務)
  • 責任は委譲できず、責任を負う個人にある
  • 割り当てられた仕事や役割に付与される
  • 割り当てられた仕事を成功裏に完了する責任を負う

 


責任は、プロセスとして考える!

プロセス定義の観点からは、責任は(そのタスクを実施する)役割(ロール)に基づいて定義することが一般的です。

 

 

しかしながら日本においては、タスクをこなす役割というより、組織の職制の観点から実施できる範囲を定義していることが多いようです。 今後、作業をプロセスという側面から定義していくことを考えると、タスクごとに「役割」を定義していくことは有意義だと思われます。

 

 

 


権限は、職制に基づいて定義する!

一方で、「権限」については職位毎に定義した方が現実的ではないでしょうか? もし、部門規定などで既に定義されていれば、それを参照すれば良いでしょう。

 

 

 


日本と欧米の文化や習慣の違いを理解することが重要!

役割と権限は、日本と欧米の仕事の仕方の違いを色濃く反映しているものだと理解しています。日本では、役割、責任、権限、スキルは組織論として取り上げられており、これらは職制に紐づいていることが多いのです。 一方、欧米ではプロセスや Job Description の中で明確に文書化されています。

 

日本にある外資系企業で、コピーした際に用紙がなくなったので用紙を補充したら、「それはあたなたの役割ではなく私の作業だ!」と怒られた、という話を聞いたことがあります。 文化的な違いは、プロジェクト発足時のプロセスにも表れています。日本ではプロジェクトは組織に紐づいていることが多く、新しいプロジェクトが発生した場合、その組織の中でメンバーを構築していきます。欧米では、プロジェクト発足時にプロジェクトマネージャが選任され、予算と権限が与えられます。マネージャは、プロジェクトに必要な技術やスキル要件を予算内で整理して、必要な人材を組織のヒューマンリソースグループに依頼し、プロジェクトメンバーを獲得していくのです。

 

欧米発の Automotive SPICE を上手く活用していくためには、日本文化における違いを明確にして、その違いに応じた対応をしていく必要があります。問題がなければ必ずしも Automotive SPICE の記述通りに現状の方法を変える必要はありません。ただし、相違点を明確にして自分達のプロセスで問題がないことをアセッサーに正しく伝えることが重要となります。

日吉 昭彦