使えるプロセス vs 使われないプロセス:決定的な違いと成功事例
「うまくいくときもあれば、失敗するときもある」
プロセス改善は、こうした属人的な開発から脱却し、誰がやっても一定の品質・納期・コストを再現できる仕組みをつくるための重要な取り組みです。しかし近年、開発の複雑化や規格対応の厳格化により、品質問題や納期遅延のリスクはますます高まっています。その一方で、監査や認証取得を目的に整備された“形だけのプロセス”が現場で使われず、改善が止まってしまうケースが増えているのも事実です。良いプロセスも、現場で使われなければ意味がありません。では、なぜプロセスは使われなくなるのか?どうすれば現場で本当に役立つプロセスになるのか?
このコラムでは、私たちの現場支援の経験をもとに、成功のヒントをいくつかご紹介します。
❖ プロセスを定義することがゴールになっていませんか?
Automotive SPICEやCMMIなどの規格に基づいて開発プロセスを構築することは、多くの組織で採用されている一般的なアプローチです。しかしそこには落とし穴があります。それは、開発上の問題を解決するためのプロセス構築だったはずが、いつしか「プロセスを定義すること」に目的がすり替わってしまうことです。その結果、どのような状態になるのか――以下の現象が多くの組織で共通して見られます。
-プロセス文書は立派だが、現場ではほとんど参照されない
-「監査対応のために作っただけ」という空気が漂っている
-改善どころか、プロセスが更新されないまま放置されている
そこには認証取得が強い動機になっていたり、目に見えるプロセス文書自体の完成度で改善を評価する文化がそうさせているのかもしれません。しかし、こういった結果を引き起こすと、せっかく時間とコストをかけて作ったプロセスが“使われないプロセス”として資産化されてしまい、いわゆる宝の持ち腐れになってしまいます。そして、顧客や経営層が期待した「品質向上」「効率化」「リスク低減」といった投資対効果が得られず、一過性の活動に終わってしまうのです。
❖ 使えるプロセスに共通する特徴
一方で、現場で「使えるプロセス」を実現している組織には、共通する特徴があります。私たちが支援してきた成功事例を振り返ると、次の4つがキーポイントとなっているようです。
- 改善の場にプロセスを使う現場も参加している
本来、プロセスは開発現場で活用されるために存在します。そのため、現場の担当者はプロセス改善を「自分たちの業務を助けるための取り組み」として、前向きに捉えています。そのため、当事者である現場の担当者もプロセスづくりに積極的に関与しています。
- 規格用語ではなく、利用者の言葉でプロセスを定義している
規格の表現をそのままプロセス文書へ転記することは否定すべきものではないのですが、規格の意図を理解して自分たちの表現でプロセスを定義することで、より明確に作業イメージができ、結果として「使ってみよう」という意識につながっていきます。
- プロセスが日々アップデートされている
プロセスの定着が成功している現場では、「プロセスが定義されてからが本当のスタート」と認識しています。そのため、現場が使えるプロセスにするためにプロセスの使用状況をよく観察し、“もっと良いプロセス”を常に追求し続けています。
- プロセスのサポーターが現場の近くにいて、相談できる環境がある
現場にとって今までとは異なるプロセスを適用することは、少なからず抵抗感や煩わしさを伴います。そんな時に、プロセスの意図や具体例を教えてくれるサポーターが近くにいることで安心感を生んでいます。その安心感が現場のプロセス定着を後押ししています。
❖ その状態を作るための3つのポイント
では、どうすれば「使えるプロセス」の実現につながっていくのでしょうか?私たちが現場で支援してきた経験から、次の3つの要素が重要と考えています。
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“現場の負担感”を最初に測る
多くの組織で失敗する理由の一つは、「改善が現場にとってどれくらい負担になるか」を考えずにプロセスを設計してしまうことです。私たちが見てきた成功事例では、プロセス導入前に「どこで手間が増えるか」「どの作業が嫌がられるか」をヒアリングし、その負担を減らす工夫を優先的に組み込んでいます。
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“小さな成功体験”を早く作る
プロセス改善は、一気に全社導入しようとすると失敗しやすいです。私たちが支援した企業では、まず一部のチームで試し、短期間で「便利になった」「手戻りが減った」という成功体験を作るようにしています。この小さな成功体験が口コミで広がり、自然と他のチームも「やってみたい」と動き出します。以下に、実際にあった小さな成功体験の事例をご紹介します。
ある自動車部品メーカーでは、全社標準プロセスを導入したものの、現場からは「手間が増えるだけ」、「結局、アセスメント対策でしょ」という声が上がっていました。そこで、まず一部のチームだけに改善を適用することを提案しました。
対象:納期遅延が多かった小規模プロジェクト
改善テーマ:“レビューの抜け漏れ防止”に絞る
新しいプロセス:既存ツールに簡単なチェックリストを追加する“だけ”
結果、レビュー抜けによる手戻りを想像以上に減らすことができ、チームからは「これなら負担にならない」、「むしろ楽になった」という声が出ました。この成功体験が社内で共有され、他のチームからも「うちでもやりたい」という声が自然に広がっていきました。
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“プロセスを変える理由”を語り続ける
現場がプロセスを嫌がる要因として、What(何を変えるか)は伝えているものの、Why(なぜ変えるのか)が伝わっていないケースが多いようです。「規格対応だから」「監査で必要だから」では、モチベーションは上がりません。成功している企業は、「このプロセスで残業が減る」「レビュー制度が上がり、品質問題が減る」といった現場にとってのメリットを、繰り返し伝え続けています。
❖ ものづくりの主役は『人』
プロセスづくりも、ものづくりも、すべては私たち『人』が為せる業です。その『人』が変わるためには命令や指示だけではなく、3つのポイントで挙げたような人の想いや意識にアプローチする取り組みも必要です。その上で、改善に関わる経営層、EPG(Engineer Process Group)、現場が一体となり、血の通ったプロセスをつくり、運用することが、すべての課題解決の根底にあると考えます。とはいえ、何もかも自分たちで計画を立てて体制を作り上げていくのは至難の業です。私たちは、その改革に加わり、一緒に手を動かし、皆様と一緒になって課題解決をすることを得意としています。
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(長澤 克仁)