進捗計画の精度向上とタイムリーな計画変更を目指して — 成長曲線適用アプローチの勧め
はじめに
プロジェクト管理の基本は、プロジェクト計画の作成および計画に基づいたプロジェクト遂行を管理することですが、プロジェクト計画の作成に苦労されているプロジェクトマネージャは多いのではないでしょうか。
- プロジェクト計画書テンプレートに沿って作成しているが、記載事項が多く、作成に想定外の時間を要している。
- プロジェクト計画に対して変更が発生する度に計画書を修正しなければならないので、面倒な作業が増えるので計画作成自体を無駄作業と感じている。
プロジェクトの利害関係者(特にスポンサーと顧客)は、そのプロジェクトが定められた予算、納期、要求品質で完了できることを期待しています。プロジェクトマネージャはプロジェクトが計画通りに進むように進捗管理すると共に、プロジェクト遂行途中で進捗状況を定期的に利害関係者に報告する必要があります。プロジェクト管理の基本である進捗計画作成は非常に重要ですので、いろいろな成果物作成や作業の進捗計画を効率的に作成/変更できる成長曲線アプローチを紹介します。成長曲線適用アプローチを活用することにより、以下の効果が期待できます。
- 目標成果物に対する作成計画(作業開始日と完了予定日)を指定するだけで、成果物完成までの進捗計画を自動作成できます。
- 成果物の作成実績を定期的に入力するだけで進捗推移と進捗計画と実績の乖離の可視化できます。
- 進捗遅れに対するタイムリーな対策発動可否判断が可能になります。
- 途中で計画自体を変更する場合は、完了予定日を変更するだけで簡単に計画修正が実施できます。
1. 成長曲線の適用とは
成長曲線とは生物の個体数、新製品の販売数、バグ発見数など、当初は少なく中途で大きくなり、その後終息するような現象を表すS字グラフを成長曲線といい、代表例としてゴンぺルツ曲線があります。一般的に、プロジェクト進捗も成長曲線と同様な推移を示すことが多いため、進捗管理に成長曲線を適用することで、計画精度向上と計画作成作業の効率化が期待できます。
ゴンぺルツ曲線(関数)の概要を以下に記載します。ゴンぺルツ関数を用いれば、管理対象目標値(K)を指定するだけで、時間軸の変数(x)に対する管理対象の累積値(y)が求められます。
次に、期間3ヶ月(10月1日~12月31日)、出来高目標値: K=1 で作成した進捗計画表作成例(管理周期:週)と、進捗管理表からの進捗グラフ生成例を紹介します。
- x :10月1日(開始日)を -3 に、12月31日(完了日)を10 に対応させ、途中区間を管理周期(週)に、x の値を日数比例で計算して進捗計画表に入力する。
- 出来高目標値: K=1 を進捗計画表に入力する。
- y :ゴンぺルツ関数を使用して、x 時点の計画値 y の値が自動計算され、進捗計画表に表示される。
- 週次で出来高実績値を進捗計画表に入力する。
- 進捗計画表に入力したデータに基づいて、進捗グラフが自動生成される。
- 進捗グラフに基づいて、出来高計画と出来高実績の経緯と乖離を定量分析し、実施すべき対策を考える。
2. 進捗計画変更に対する対応
プロジェクト期間中には、要求仕様の追加/変更、リソース調達、予期せぬ問題発生、事業環境の変化、社会情勢の変化、進捗遅れ等の内部・外部要因により、一般的にプロジェクト計画見直しが必要な場面が複数回発生します。よくある事例として、プロジェクト計画書の進捗計画を更新しないまま、現場での臨機応変な対応を優先し、進捗計画は後で更新すれば良いと考えがちになります。一旦この状況に陥ると、後追いで進捗計画を更新するのが億劫になり、結果的には当初作成したプロジェクト計画書が形骸化し、計画との乖離を管理することができなくなってしまいます。
進捗計画の変更が必要となる場合は、具体的には殆どの場合出来高目標値(プロジェクト規模見積もり)と期間の変更ですので、ゴンぺルツ曲線を適用した計画作成では出来高目標値K、開始日/終了日の変更となります。これらのパラメータ変更だけで簡単に進捗計画全体の更新ができるので(出来高実績は変更無)、タイムリーな進捗計画変更が可能です。また、初期から進捗計画更新の履歴を保管することで、履歴データ分析による進捗計画自体の品質改善活動にも役立ちます。
出来高計画値の変更( 1→ 1.4 )、進捗遅れ発生(一週間)により、進捗計画を変更した事例を紹介します。
- x :10月1日(開始日)を -3 に、2月4日(完了日)を 10 に対応させ、途中区間を管理周期(週)に、x の値を日数比例で再計算し、進捗計画表の期間を延長する。
- 進捗計画表に入力済の出来高目標値を、K= 1.4 に変更する。
- y :ゴンぺルツ関数を使用して、x 時点の計画値 y が自動計算され、進捗計画表に表示される。
- 記入済の週次の出来高実績値はそのままの値で変更しない。
- 進捗計画表に入力した変更後のデータに基づいて、進捗グラフが自動生成(更新)される。
- 更新された進捗グラフに基づいて、出来高計画と出来高実績の経緯と乖離を定量分析し、実施すべき対策を考える。
3. ゴンぺルツ曲線 の適用範囲
ゴンぺルツ曲線を適用した計画作成と進捗管理は、以下のようなプロジェクト管理のさまざまな場面に適用できます。
- プロジェクト全体の進捗計画作成と進捗管理
- 開発機能毎/開発担当者毎の開発計画作成と進捗管理
- 開発機能毎/検証担当者の検証計画作成と進捗管理(品質管理)
- システム/ソフトウェア全体の検証計画作成と進捗管理(品質管理)
- 問題発生予測作成と進捗管理(品質管理)
まとめ
成長曲線アプローチを活用した進捗管理について紹介しました。成長曲線に基づいて進捗計画を作成すると、進捗計画の精度は向上します。進進捗計画と進捗実績をグラフ化(可視化)し、乖離を分析して進捗遅れが発生していればその対策を考えて実施することが、のタイムリーなリカバリー対策となります。また、必要に応じて、進捗計画自体を変更する必要があります。
プロジェクトマネージャはプロジェクト全体の進捗管理や品質管理に、開発担当者は開発機能の開発計画作成と進捗管理に、検証担当者は検証計画作成と進捗管理にと、成長曲線アプローチを各担当業務に応じてスモールスタートで適用してみてはいかがでしょうか。
本コラムでは成長曲線を適用した進捗計画作成の効率化について紹介しましたが、プロジェクト計画作成、プロジェクト見積もり、定量的進捗管理、進捗分析等にご興味あるかたは、ぜひ弊社実践トレーニングの案内をご参照ください。
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(海農 公宏)