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コラム

“やりすぎFMEA”に終止符を ─ 生成AIを使ってもっと「創造」しよう ─

はじめに

あるお客様から「FMEAの作成に膨大な労力を費やしており、作業を効率化したい。」というご相談をいただきました。これは、多くの開発現場に共通する悩みではないでしょうか。

FMEAをはじめとした設計ドキュメントは、品質と安全を確保するうえで欠かせないものです。しかし実際の現場では、開発プロセスに則った各種設計ドキュメントの作成に多くの工数と時間が割かれ、「創造」よりも「作業」に没頭する比率が大きくなってしまうケースが少なくありません。

そこで私たちは、生成AI(ChatGPT)を活用し、FMEA作成のプロセスをどこまで自動化・支援できるかを試行する取り組みを行いました。

結果として、「FMEAとしてそのままでは使えない部分がある」という課題は残るものの、AIによるたたき台生成の有効性と工数削減効果は明らかであり、「生成AIは必ず使える、確信を持てた」という非常に前向きな評価をいただきました。

このコラムでは、その検証結果とともに、FMEA作成に潜む根本的な課題と、それらに対する生成AIの有効性についてご紹介します。

 


FMEA作成における3つの課題

ご承知の通り「FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)」は、車載システムの信頼性・安全性を向上させる必要不可欠な設計作業のひとつです。しかしその一方で、作成やレビューにかかる労力が大きく、多くの開発チームにとって「やりすぎになりがちな成果物」の代表格でもあります。実際の現場では、以下のような課題を抱えています。

  1. 経験と知識に大きく依存し、属人化しやすい
    機能安全やフェールセーフ設計など、FMEAには高度な専門知識が必要です。そのため、成果物の質が担当者のスキルや経験に左右されやすく、再利用性やナレッジ共有が難しくなる傾向があります。
  2. 組み合わせが膨大で、表の編集作業が重い
    制御ブロックと信号の組み合わせは膨大で、それぞれに対して故障モードや影響、対策を網羅的に記述しようとすると、膨大なセル数のFMEA表が出来上がります。手作業による展開は工数負荷が高く、更新ミスのリスクもあります。
  3. 多人数によるレビューが不可欠だが非効率
    FMEAの信頼性を担保するためには、複数の有識者を集めたワークショップ形式のレビューが必要となるケースも多く、調整と討議に時間も手間もかかり、調整に追われる場面も多く見受けられます。

 


生成AIは、これらの課題にどう貢献するのか?

今回の検証では、ChatGPTに対して「構成ブロック図」「各ブロックの機能概要」「入力信号のリスト」を与えることで、自動的にFMEAのたたき台を生成するプロセスを試しました。その結果、以下のような具体的なメリットが得られました。

  1. ナレッジの再利用・標準化が可能に
    ChatGPTには、FMEAの基本構造や業界でよくある失敗事例、設計パターンがすでに学習されています。そのため、個人の経験に頼らず、一定の質で初期案を出力できるのが大きな強みです。
    もちろん、閉域ワークスペースで企業独自のテンプレートや言い回しをAIに学習させることで、自社専用のFMEAナレッジベースを築くことも可能です。
  2. 膨大な組み合わせを高速処理
    従来はエンジニアが手動で展開していたパターンを、AIが論理的に組み合わせて網羅的に出力します。これにより、記述作業にかかる時間を大幅に短縮し、レビューや検討といった本質的な作業に集中できます。
    今回はFMEA作成に必要な入力情報が準備できた状態から、設計者の手作業だと数週間必要な「FMEA初稿作成」が数時間で対応可能でした。(作業時間短縮試算:80時間(10日間)が4時間に!)
    実際の工程としては、FMEA初稿作成以降の作業工数(レビューや成果物としての仕上げ)が必要ですが、今回は未評価でした。
  3. レビューを「ゼロからの作成」から「AI出力の確認」へシフト
    生成されたFMEAはあくまで「たたき台」であり、人による確認と修正は必須です。しかし、ゼロから考えるのではなく、AIが出力した案に対してレビューを行うスタイルに変えることで、ワークショップの効率が格段に向上します。

 


FMEAにとどまらない、生成AIのポテンシャル

この検証を通じて、私たちはFMEAだけでなく、他の設計成果物(機能仕様書、検証仕様書など)への展開可能性でも同様に大幅な効率改善ができると強く感じました。
これからの開発プロセスとして、「まずAIにドラフトを書かせる→人がレビューして精緻化する」という流れが、従来の作業スタイルを大きく変える可能性を持っています。

我々としては車載システム開発プロセスに生成AIの活用を組み込みたいといったご要望に対応していきたいと考えています。

 


おわりに

創造的な開発のために

開発現場はこれまで、品質を担保するために膨大なドキュメント作成やレビュー作業を背負ってきました。しかし、そのプロセスが目的化してしまえば、本来注力すべき設計検討や創造的な活動の時間が圧迫されてしまいます。

生成AIは、こうした作業を効率化するだけでなく、エンジニアが本来注力すべき「創造」や「発想」に時間を取り戻すツールでもあります。
「やりすぎ設計書」に終止符を打ち、知的資産を活かしたスマートな開発プロセスへ。生成AIとの協調は、技術者の働き方そのものを変える可能性を秘めています。

今回のコラムはいかがでしたでしょうか?

本コラムの内容が、生成AIの活用や開発プロセスの見直しのきっかけになれば幸いです。

ご相談いただければ、これまでの経験を活かしてお力になれることもあるかもしれません。どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

(越智 功)