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コラム

Automotive SPICEを使って業務は改善されているのか?

はじめに

「Automotive SPICEを導入してプロセスを整備したけど、本当に現場の役に立っているの?」
そんな声を、あなたの組織でも聞いたことはありませんか?

たとえば「開発標準は整っているけれど、実際には形骸化していて使われていない」

「レビューやチェックリストの数は増えたが、かえって手間が増えて効果が見えない」

 --こうした現場のモヤモヤは、多くの組織で共通しています。

Automotive SPICEの導入やアセスメント対応を契機に、プロセスを整備したものの、「かえって開発がやりにくくなった」「成果が感じられない」という声が上がることも少なくありません。

この背景には、“プロセスを定義すること”と“改善すること”が混同されているという問題があります。

文書化や標準化はあくまでスタート地点。定義されたプロセスが現場に定着し、実際の課題に対応して見直されてこそ、本当の意味での「改善」と言えます。

プロセス改善グループ(EPG:Engineering Process Group)は、開発組織のパフォーマンスを高めるために活動していますが、定めたルールや仕組みも、現場に馴染まなければ“形だけの改善”となり、かえって現場の負荷や反発を招く結果にもなりかねません。

本コラムでは、Automotive SPICEなどの成熟度モデルを活用するうえで、プロセス改善が“やりっぱなし”にならず、継続的に成果へとつながっていくための鍵として、EPGと現場との対話、そして改善サイクルの回し方について考えてみます。

「やりっぱなし」から脱するには、現場との対話が必要

プロセス改善活動のなかで、ありがちな失敗の1つが「とにかく標準を整えよう」「レベルを上げよう」といった目的化の罠です。プロセスの完成度やドキュメントの網羅性を追い求めるあまり、現場の課題感や使い勝手が置き去りになる――その結果、「改善活動が負荷として認識されてしまう」という状況を招いてしまいます。

こうした“やりっぱなし”の背景には、「変えたら終わり」という思い込みが潜んでいます。しかし本来、プロセス改善は「一度仕組みを作って終わり」ではありません。運用され、計測され、見直されるというサイクルを回してこそ、本当の意味での“改善”が成立するのです。

たとえば、ある開発チームでは、レビューの指摘数や重大バグの混入率といったKPIを継続的に追跡していました。
分析の結果、「アーキテクチャ設計レビューでの指摘が少ない一方で、後工程でのバグが多い」という傾向が明らかになり、EPGが設計レビューの観点やタイミングを見直す取り組みを支援しました。
具体的には、レビュー観点にシナリオベースの確認を加えたり、関連ドキュメントの整合性チェックを強化するなどして、設計段階での問題発見率が向上。結果として、後工程での重大な不具合流出が有意に減少しました。

このように、定量的な観測と実践的なフィードバックを通すことで、改善活動が“やりっぱなし”で終わらず、継続的に改善サイクルを回していく原動力になります。

現場に「関わる」ことで、プロセスが生きてくる

改善活動が現場に受け入れられ、成果につながるかどうかは、EPGがどれだけ現場に寄り添っているかにかかっています。

ある組織では、EPGメンバーが現場のレビュー会議にオブザーバーとして参加することで、レビュー観点の形骸化やチェックリストの実態に合わない運用に気づくことができました。
「この観点は、実際には誰も使っていない」「この手順は無理がある」――そんな声を拾い、現場とともにプロセスや観点を見直した結果、レビューの質が改善し、抜けや漏れが減るという成果が生まれました。

これは、EPGが“改善する側”ではなく、“一緒に改善する仲間”になることで初めて得られた成果です。

プロセス改善を“プロセスのための活動”にせず、現場の本音や実情を反映するためには、こうした「対話」「関わり」「フィードバック」が欠かせません。

さいごに

今回のコラムはいかがでしたでしょうか?

Automotive SPICEは、業務をより良くするための仕組みであるはずです。
しかし現実には、「形だけの対応」や「負担ばかり増える」といった声も少なくありません。

本コラムが、「改善は本当に現場の役に立っているか?」という視点で、今一度プロセス改善のあり方を見直すきっかけになれば幸いです。

EPGという立場だからこそできる“現場との対話”や、“小さな気づき”の積み重ねが、Automotive SPICEを「業務改善のためのツール」として真に機能させる第一歩になります。

現場のリアルに触れながら、実践的な改善のヒントを共有できるよう、これからも発信していきたいと思います。

(安部 宏典)